=第六章・第十部= =月食われた闇の時より来る日= |
| 白いベッドの上で、眠り続ける隼人。その腕には点滴がついており、…黄色の雫が一滴、一滴と落ちて、…隼人の中へと流れ込んでいっていた。 彼には意識はないのだろう…、空ろに開く瞳は何を見るでもなく、口は小さな小さな呼吸音だけを響かせていた。 ベッドの元へとやってきた二人を見ながら、部屋の隅に寄せてある椅子を持ってくる雀。そして、彼女達二人に座るよう、手の平を上にして促してくれた。 「すまんの、…」 鶫が雀を見て、そう言い、手を引きながら、腰を下ろす。…イスカも習い、…席に着いた。 その二人の向かいには…自分達を見つめる隼人の両親が座っている。… 「申し訳ありません」鶫の言葉から訛りが消える。 「このような事態を、隼人さんに起こしてしまった事、本当に申し訳ありません。もちろん、謝っても許してはもらえないかもしれません」 手を突くように頭を深々と下げる鶫に、両親の視線が集中する。 「けれど、私達には、謝ることでしか、…隼人さんのご両親に示せるものはありません。本当に申し訳ありませんでした」 「…」「…」 静かな病室に響く彼女の言葉言葉を無言のままに、聞き続ける両親。 「…だめであるならば、…私はこの場から身を引きます。…でも、イスカだけは、傍にいさせてあげてください」 鶫は涙があふれるかもしれない瞳を、彼の両親に願いを聞きとめてもらえるようにと開き、二人を見つめ、心思う事を言葉震わしながらも話し続ける。 「隼人さんに説明もなく、…イスカをお願いしましたのは、私です。イスカ自身、自分の体質も知りません。私は知っていたにも関わらず、彼に頼み、イスカを傍に…おかさせてもらったのです。全て、私が原因です。こうなるかもしれないと、予想していたのに…隼人さんに、お願いした私が全て、悪いんです」 そして、再び頭を下げる鶫。 「ここを去れと言うのでしたら、私は学園を去ります。でも、イスカだけは、よろしくお願いします。彼女だけは、私の妹にだけは、もう…もう………」 最後には、言葉が途切れ、口ごもっていく鶫。こらえきれなくなったのだろう…その握り締める両手に、涙が弾け、流れていった。 「…私は」 今にも嗚咽がきこえてきそうな鶫を見つめていた隼人の父親である鷹夫が、…ゆっくりと口を開いた。 「父親面をするほど、私も出来た親ではないさ…幼い頃から、隼人を投げ放していたのだからな…」 彼はそう語りだし、…そして、隼人の顔を見る。 「親戚一同にお願いし、預ける毎日。…なんで、産んだんだ?と、親戚にも問われた事もあった…それほど、私も妻も隼人から離れていたような気もする。自分の研究に開花の兆しが見えて、…置き去りにしてしまったようなものだ」 その言葉に母親の美鳳もうつむいた。 「親戚の柏原絵里奈が死んだ事を…便りで知った。…思うものはあったものの、受け流すように、当時は見ていたが…隼人にとって、彼女ほど大切な存在はいなかったと、そう知ったのは…一年も後だろうか」 そこで言葉を切り、鷹夫は鶫を見る。鶫も頬を涙でぬらした表情で、彼を見つめ返していた。 「こんな光景を…隼人は体験していたのだろう。まだ、理解できないほど小さかった隼人に…こんな体験をさせてしまったのだろう。…そして、その傍に私達はいなかったのだよ。薄情な親だ…」 「私は、まだ許せません」彼の言葉を遮るように、美鳳が口を開く。 「こんな事になるなんて、夢にも思わなかった。…こんな隼人の姿を見るために帰国したのではありません」美鳳は声甲高く、鶫の起こした行いを否定した。…が、「…でも、」と、美鳳もまた、声を弱め、鶫を見つめる。 「でも、傍にいなかった私も悪いのでしょう。隼人が迷った時でも、私達は何もしてやりはしなかったんですから。それでいて、母親面なんて…出来るはずもない…」 視線を落としつつ、隼人を見つめ、それからうなだれていく美鳳。それを優しく抱き寄せる鷹夫。 そして、…彼女が落ち着いたのを感じたのだろう、美鳳を労わるように抱きしめながらも、鷹夫が、雀、イスカ、鶫と順に見つめ、それから、口を開いた。 「…薄情かもしれないが…、明日には私達は再び、向こうへ戻らなければならない…。そういう決まり事だ。そうしなければ、その土地へ私達を送ってくださった学園の示しがつかなくなる。もちろん、…事情を説明し、事を済ませ、すぐに帰国するつもりだ」 立ち上がり、そして、頭を下げる両親。 「九白次長、しばらくの間だけ、よろしくお願いします」 両親の言葉に鶫とイスカ、雀は振り返る。そこに、優しく微笑む智恵美が立っていた。 「私のほうからも、働きかけます。もちろん、あなたの研究には、学園も多大な期待を持っております。隼人君の復帰にも、尽力を尽くさせていただくわ。だから、いってらっしゃい。帰国を待っているわ」 |