=第六章・第十一部= =月食われた闇の時より来る日= |
| 「イスカさん、隼人さんの手を握ってみませんか」 両親と智恵美が病室を後にしてから、数分後、雀がイスカに話しかける。 「…」 ただただ、体を固定し正面より下目で見据え、中空を見つめていたイスカが、その言葉を聞いて…、それから、鶫の方を見る。それに鶫はただ優しく微笑んでみせ、「一緒に…やな」と、イスカの手を握り、その手を布団の中にと、もぐりこませた。 「隼人…」 導かれるままに手を進めるイスカが、彼の名を囁いた。…そして、彼女の手が彼の手に触れると、その唇が一瞬、結ばれる…。 「…私、…」 「生きていると、感じますね」 中空を見つめ、悔いるような言葉を漏らしそうなイスカに、雀がそう語り、笑いかけてみせる。 「隼人さんは、温かいでしょう。生きているんです。生きているのなら、きっと、目を覚まします。だから、自棄にならないでください。イスカさん」 イスカは雀を見て、そして、隼人を見たが、空ろなままの彼は、…中空を見つめているだけであった。 「…私、…どうしたら…」 「いいんよ。傍にいる事がいいんよ。わしらは、 鶫の言葉に、雀もうなずいてみせ、それから、自分自身にも言い聞かせてるような感じでイスカに語りかける。 「手を握り、…隼人さんの回復を願うこと。大切な事です。イスカさん、…やっていきましょう…これからも、隼人さんを好きでいるのなら…やっていきましょう」 その言葉に、イスカは…小さくうなずいた。 …鶫も同じく、うなずいてみせ、ちょっとだけ悪びれたような表情をみせながら、眠る隼人に話しかける。 「…、そして、それから、わしは謝るんや。こんな事してもうて、すまんかった、てな。全部、話して、呆れるくらいに頭を…こすりつけてな…だから、は〜ちゃんには、…元気になってもらわなへんといかんのや…」 そんな鶫の言葉に、イスカも雀も、少し大げさにうなずいてみせるので、「なんや、少しは謙虚にうなずけんのかいな」と、頬を大きく膨らましてもみせた。 そんな表情の鶫に、雀は少しだけ苦笑を漏らしながら微笑み、イスカも鶫を見つめ、…言葉を待った。 「…こうやって…、紫嶋を見つめることもできなかったんや…。逃げてしまったんや、わしは…」 そんな二人から鶫は視線を隼人に戻すと、すっと真顔になり、隼人の髪に触れる。その髪を梳くようになでてから、…手を離し、…胸の奥にある言葉を二人にと紡ぎだしていく。 「後悔ばかり、…わしは後悔ばかりやった。もし、わしが傍にいれば、紫嶋は元気になったかもしれん。…死んでしまう事もなかったかもしれん。…わしは、後悔ばかりやった」 鶫の言葉に二人は耳を傾ける。 「隼人が、紫嶋の代わりになるなんてありえんけども…、そいでもな…」 言葉を続けようとする鶫の手に雀が、手を優しく添えてみせた。 そして、雀を見る鶫に対して、首を横に軽く振ってみせる…。 「過去を振り返り、足踏みしていては先に進めません。その事を隼人さんも自覚していました。…鶫さん、振り返ることはいい事です。過去にあった過ちを見つめ、そこから見出し、未来を造る。…けれど、今、あなたは、再び背を向けようとしていました。未来に…」 そして、イスカに視線を向ける雀。 「私自身、お二人の体のようなものを持っていません。持っていないから、お二人の真意を理解しきれてないかもしれません。言葉でいくら言い繕うとも、…お二人自身の身体に起こっている自体を私が体験できるものではありません」 そこで、…一度言葉を切り、隼人を見つめる。 「お二人のお気持ちに近く…ただ、近づける努力はしていきます。…ですから、背負い込まないでください。至らないかもしれませんが、私もお二人のお力添え、させていただきます」 「…雀さん、あんたと、は〜ちゃんに出会えた事、感謝するわ。二人に出会えた事、とても感謝しとる」 鶫が雀の手を握る…ただ、力強く、握る。 「イスカを救ってくれる人がこれだけ、いる事。出会えた事。…わしは…わし一人じゃ、できんかったから…」 その言葉に、雀は小さく首を横に振ってみせた。 「私も、鶫さんに会えた事で、…勇気がもてました。いろんな事に…こんな私にもご恩をお返しできるのでしたら、…これほどの幸福はございません」 そして今度は、視線をイスカにと向けた雀は、小さな子どもを諭すようにやさしく語りかけてみせる。 「頑張りましょう。…隼人さんは、絶対に元気になります。また、隼人さんが元気になったら、…みんなでいきましょう。あの町へ…、鶫さんの町へ」 雀の言葉にイスカは、…唇を結ぶ。そして、…涙目のまま、…小さく微笑んでみせ、 …小さくうなずいてみせたのだった…。 |