=最終章・第二部=

再び訪れる朝焼けの日より来る日

 

「…イスカもだいぶ売れてきたんやな〜、見たで〜、仕事先の駅の売店に大々的やったわ」
 ケーキを食べる琴璃を向かいに、腰を下ろした鶫は台所でお茶を用意するイスカにそう話しかける。
「あの推理小説、なんかの賞とったんやて?」
 準備を追え、琴璃の横に腰を下ろしたイスカに続けて話しかける鶫。それに対して、イスカはたんたんとしたもので、紅茶と洋菓子のセットを載せたトレーを机に置き、白磁器のティーポットから一杯目を白いカップに注いで、鶫の手元へと差し出した。
「興味ないわ、…生活するために書いてるだけだもの」
 話しかけるも返答がないのに、軽い溜め息を漏らしつつ、そのカップを手に取った鶫に、イスカがやっと、そうとだけ答えてみせた。
「なんや、自慢するとおもたに、そういう所も変わらへんな」
 彼女の昔と変わらない態度と様相。それに、もう一度だけ溜め息を吐いてみせて、鶫は紅茶をすすってみせる。
「姉さんも、仕事…どうなの?」
 一口をつけ、…口元が離れる、そんな不意なタイミングでイスカが鶫にそう話しかけてきた。
「わしは、未だにしがない窓際OLやわ」それに鶫はちょっとだけ目を開いて、それからニヘラと笑ってみせる。
「くっさい上司もおるのがたまに傷やてな」
「それも気楽でいいんじゃない?」
「まあ、のぉ〜、おまんみたいに考える脳みそないからの〜、良いといえば、良いかもな〜」
 そんなやり取りをしつつ、鶫は用意されていたクッキーをカリカリかじっていたが、物思うように口を閉ざし、…イスカを見た。その表情は、少しだけ憂いなものを見せてもいた。
「体の事思うとな…、おまんみたいな職業の方が、気楽やと思うわ」
「…」
 イスカもその言葉に…小さくうつむく。
「ねえねえ、おばちゃん。あそぼ〜」
 少し重苦しく感じた空気の中、ケーキを食べ終わった琴璃が大きく伸びをするように立ち上がり、目をキラキラさせながら、鶫を見る。
 そんな可愛らしく甘ん坊な輝きを放つ琴璃へ視線をむけるイスカと鶫。それから、お互いを見て、噴出したような苦笑を見せ合うと、鶫が「お〜し、いいで」と、立ち上がってみせる。
「でも、琴璃やん、わしはおねえちゃん!鶫のお姉ちゃんやでぇ〜」と再度言い直しを要求しながらも、鶫は琴璃を抱き上げ、「何して遊ぶんや〜」と、頬擦りをしてみせる。
「カート〜、おばちゃんは亀の王様〜」
「なんや、使う相手もご指名かいな…、〜って、なんで、あいつかぁ〜い!」
 簡単なボケツッコミを演じながらも、はしゃぐ琴璃を抱え歩きだす鶫だったが、ふと足を止め、イスカの方を見た。
「私はいいわ…ゲームは苦手だもの…」
「そうけ、それじゃ、ちょっくら遊んでくるわ」
 二人のやり取りをよそに、イスカは軽く紅茶をすすっていたが、そんな鶫に気づき、二人に微笑んでみせる。鶫もその顔に満足したようで、奥の部屋にと消えていったのだった。

「…」イスカは二人の消えたドアを見つめる。そして、小さく微笑んでみせたのだった。

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