=最終章・第四部=

再び訪れる朝焼けの日より来る日

 

「休憩、休憩〜、お姉ちゃん、休憩〜!!」
 イスカが、雀の言葉へ一言、口にしようとした瞬間、ドンっと奥の部屋のドアが開き、オーバーアクションで鶫が部屋に乱入してきた。
「って、おかんな〜、雀」
 鶫の性格が分かっているだけに、いきなりの乱入の上での彼女のアッケラカンな声へ、イスカは口答えせず、とりあえずは眉を寄せてみせながら、ソファーに座り直してみせ、ちょっとだけ、抗議してますよという態度を見せてはみた。もちろん、それが、彼女に伝わらないだろう事も、十二分に承知の上で…だが。
 そんな二人の姉妹の態度に、ただクスクスと雀は笑いつつ、「はい、ただいま…です」と、鶫に返事を返してみせる。
「ちゃちゃ、琴璃やん、母(かか)が帰っとるでぇ〜」
 その雀の帰宅の挨拶に、鶫は笑顔を返しながら振り返り、奥の部屋に残っている琴璃へと声をかけてみせる。すると、中から「ママ〜」と声あげながら、琴璃が走り出てきて、雀にピョ〜ンッと抱きついてみせたのだった。
「ただいま、琴璃」
「おかえりなさ〜い」
 挨拶を互いに返しながら、雀は膝に乗っかる琴璃を見つめ、その頭をなでてみせていた。が、…ふと、「…そういえば」と、琴璃の後に続いて、イスカの横に腰を下ろした鶫を見て、問いただす。
「お仕事は大丈夫なんです?」
「そらまあ、大丈夫やね」その雀の質問へ、自信満々に、大きくうなずいてみせる鶫。
「訪問販売員に代わってもろうて、来たからの〜」
 その答えに、イスカが、気持ち変えて口に含んだ紅茶を、一瞬、吹きそうになりつつも、持ち直し、…それから、鶫を見て、「あれ、冗談じゃないの?」と、今度は、彼女が問いただしてみせた。
「おお」イスカの言葉と行動が面白かったのか、ニヘラ笑いを見せながら言葉を続ける鶫。
「そのかわり、な〜も持ってきておらんけどな〜」
 彼女はそう言いながら、ケタケタ笑ってみせる…が、しだいに二人が少しばかり冷ややかな目を見せはじめると、さすがに気まずくなったのだろう、「冗談や、冗談」と、言い繕ってみせるのだった。
「ちゃんと、有給とったわ。今日という日を、ぱ〜っとやったらなな〜、ぱ〜っと」
「ぱ〜、ぱ〜」
 鶫が両手を大きく広げ、オーバーアクションをしてみせると、それに習うように琴璃も大きく手を広げてみせた。その様に、雀は琴璃の体を抱き寄せて、上から覗き込み、「もう…」と呟きつつ、ほえ?っとした琴璃へ苦笑を見せる。
「あまり、真似しないの…琴璃」
「なんや、雀もわしを悪い見本と思うてるのか」
 その雀の言葉に、鶫は拗ねたようなしぐさを見せる。
「もう少し、落ち着きを持ちなさい。姉さん。…」
「へいへいへ〜い、ですわ」
 常にオーバーアクションな鶫を見て笑う琴璃を見ながら、イスカは、…琴璃の喜ぶのが嬉しいから鶫がやっていると知りながらも…諭すような言葉を彼女へかけてみせる。それに対して、ただ、鶫は生返事を返しつつ、ソファーに寄りかかってみせるだけだった。

 それから会話が途切れ、…しばらくの間、言葉もなく、その静けさを堪能するように時が流れていく。

「そこで、久々の顔をみたで」不意に、鶫が口を開く。
「元気そうにしとったわ。燕の奴も」
「…そうですか」少しだけ、眠たそうにしている琴璃の頭を優しくなでながら、雀は少しだけほっとしたような息を漏らす。
「…隼人さんの事で、剣幕が凄かったですものね…、憑き物でもついたかのように…」
「そうね、…」
 雀の言葉に、イスカも呟き、…まるで、古傷をさするように…軽く頬に手を当てる。
「…、まあ、わしら姉妹には、きつかったからの…やらかした事がやらかした事やったからな…」
 雀、イスカと話した順に見て、それから、片手で髪を軽く掻き毟りながら、言葉を続ける鶫。
「さすがに、わしには気づいてはなかったみたいやが、…まあ、新しい恋見つけたみたいやしな…うまくはいってるみたいやで」
「そうですか、…」「…」
 鶫への返答を探り、言葉をだそうとする二人だったが、…やはり、適当な事が浮かばないようで、無言の時だけが過ぎさっていった。
「…む〜、…」
 話題一つでもと思って、口に出した鶫だったが、再び、息の詰まるような静かな空間にとなってくるのに、「ぶはっ!!」と、息を吐いてみせる。
「なんや、もう〜、は〜ちゃん、まだ帰らんとか〜?」
「…、くすっ…」鶫の不平たっぷりな言葉を聞いて、雀は唇に苦笑を浮かべてみせる。
「仕方ないですよ。一応、会社勤めですもの。帰ってくるのは、五時以降でしょう…、わざわざ有給を使わなくてもよかったでしょうに」
「姉さんの場合、サボりたいだけでしょ。…隼人は、真面目なんだから、あんまり困らせる事はしない」
「うが〜、うっさいの〜、」二人の言葉に、グンッと伸びをしてみせる鶫。
「昼とかで遠出して、美味しいものと思うとったが、しゃあないから、買出しでもしてくるわ〜」
「え?…そんな事されなくても、家のもので作りますよ」
 いきなりの鶫の申し出に、雀はちょっと驚いた表情をみせ、立ち上がった彼女へ声をかける。
「いいんや、買いにいく!」それでも、駄々をこねるように言い放つ鶫。
「というか、こういう日は家事も忘れて、ぱ〜やるんが普通やわ!やけん、買いにいくんや!」
 そうまくしたて続ける鶫に、雀はただ嬉しそうに、それでも少し申し訳なさそうに笑ってみせる中、イスカが空にしたカップを置き、「じゃあ、私もいくわ」と、小さな声で彼女へ同行を提案してきた。
 その彼女の提案に目を丸くする鶫へ、「変な物、出されても…困るものね…」と、言葉を続けてみせると、ちょっとだけ、鶫の顔がクニュっと歪み、唇を突き出してもみせた。
「わしが今までなんか、変なもんでも買ったかの?」
「…そういう気がするのよ」
 鶫の不平の言葉へ、イスカも日頃の行いといわんばかりの言葉を返してみせて、「ちょっと準備してくるわ」と、立ち上がってみせる。
 それにただ、鶫は苦虫をかむような表情を見せながら、「しゃあないの〜」と、答えてみせ、玄関へ向かったイスカにと、眠たそうな琴璃を気遣って、少し抑えめな声量で声をかける。
「じゃあ、下のロビーで待っとるわ。はや、来いやな〜」

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