=第一章・第一部=
=1日目=

 

 都会の喧騒から離れた山間にある原線路界町という村のような町があった。
 それは夏の暑さが少しおさまり、秋の序盤。
 名所と言えるほどではないが、山々に囲まれていることもあって、その四方は燃ゆるように木々が赤黄と色づけば、ちょっとした風流な色合いをかもし出してはいる…。
 その山間に沿って、一本のレールが通り、…少し古めかしくもあるディーゼル式の汽車が二台の客車を引いて、その上を走り抜けていくのだった。

 折り返しの汽笛が鳴り響く最中、一人の男が原線路界町の顔とも言える駅にて、少し途方にくれた表情を見せていた。
「…」
 手に持つのは、少し大きめなボストンバックのみで、安っぽいコートにTシャツGパンという、…端から見てもみすぼらしい雰囲気をかもし出してはいる。
その男は、駅前にでながら「まいったな…」と、小さく呟いてみせた。
朝の陽射も弱まってきた頃にも関わらず、商店街は静かなもので、人影もない。
どこか、悔いたような表情を見せつつも、…バックを抱えなおして、男はその街中へと足を進めたのであった。

陽射は温かくも風が冷たい街中で、男は何かを目にし、立ち止まる。
その視線に先には、[喫茶Rain-Bow]という看板が目に付いたのだ。…男は、少し思案した後、…その戸をゆっくりと押し開ける。

「いらっしゃいませ〜」軽やかなドアベルと共に、店中から負けないほどに艶やかな女性…というよりも少女の声が響き、誰かが男の下へと駆け寄ってくる。
「…、…」そして、男の前にウェイトレスが立ち、少しまじまじと見つめ、…
「君、初めてな人だね」
 と、男に向かって、笑いかけた。

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