=第一章・第二部=
=1日目=

 

「はい、Rain-bowの特製コーヒー」
「えっ、は…」ウェイトレスに進められるまま、カウンターに座る男へ、細やかな作業をしていたオーナーらしき女性が、一つのコーヒーカップを置く。
「この町、初めての方ですからね。ミルク、砂糖はいります?」
「いえ…」少し、気後れをしながらも、男は差し出されたコーヒーとオーナー、そして、ウェイトレスに目をさまよわせる。
「この町は小さいし、だいたいの人は顔見知りなのよ。それに、あなたの表情には途方みたいなものもあったからね」
 ウェイトレスが自分の顔を見られた時、ニコッっと笑い、小さな八重歯を覗かせながら、男に語りかける。
「でも、よくこんな町に着たわね」
 そして、男が軽く、コーヒーに口をつけた時、ウェイトレスが再び口を開いた。
「特に、目ぼしい観光も風景もないし、産業もない。あるのは、馬鹿でっかい学校だけなのに…」
 そう言われて、男も小さくため息をついてみせる。
「一応、これでもマジシャンとかね…」
「…へえ」男の言葉にウェイトレスが食いつき、顔を寄せてくる。
「名前は?有名人…」「いや…」「なわけないか」
 一応、といえば一応な反応に、…少しはむっとした表情をみせながらも、男は…軽く咳払いをしつつ、…
「栗本昭汰…芸名は一応、マツリ…。町々で小さくやってる旅芸人だ」
「久美、あなたも失礼よ。…それで、この町に仕事で?」
 男…昭汰の立場を立てるように、オーナーがウェイトレスを叱責しつつも、昭汰に問いかける。
「…、ええ、そのつもりでね…」
 オーナーに問いかけられて、昭汰は再び、ため息をつき、…ぼやく様に言葉を返す。

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