=第一章・第三部=
=1日目=

 

 失礼な言い方、そう極まりないのだが、…思いのほか、寂れた街並みである。
 というのが、彼の印象であった。
 だが、そんな思いを見透かすかのように、オーナーがクスッと笑い、ウェイトレスに視線を向けた。
「久美、そういえば、役所にケーキのお届け、あったわね」
「え、そんなの…?あっ、…〜ぁあ、あ〜」
 オーナーの言葉に少しばかり、眉をひそめてたウェイトレス、…名前は久美らしいが、ふと思い出したように、手を叩くようなしぐさをしてみせた。
「じゃあ、着替えてくるわ、少し待ってね」
 昭汰は目の前で起こる言葉のやり取りを、…聞き流しながら、コーヒーに口をつける。
「…ん、…」
 そして、コーヒー独特の渋みが舌先に残るものの、ミントのような爽やかな感触が通り抜け、鼻先に新鮮な空気が乱流しているような…そんな感触の味わいに、目を丸く、息を漏らした。
「…美味しいですね、このコーヒー、…初めての味ですよ」
「ふふ、そういってくれると、少しだけ鼻が伸びてしまうわね」
 彼の感想に、オーナーが微笑み、届け用のケーキを持ち帰り用紙ケースへ手際よくつめていく。
「どこの、…豆だろう…、」
 仕事柄、いろいろと日本国内を回る機会が多いのと、小学校の頃よりコーヒーを嗜んでいた彼だったが、味わい深いこのコーヒーの銘柄だけは、どうしても当てれそうになかった。
「…ぜひ、これは取り寄せたいですね。マスター、これだったら、通販なんかでなら、人気間違いなしなのに」
「〜、ん、ごめんなさい。この豆自体、かなり希少で手に入りづらいのよ。こんな田舎町の喫茶店だから、少々でも十分っていうのもあるからね。ちなみに、もちろん、内緒よ」

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