=第一章・第六部= |
「あははははは」久美が笑う。 その笑い方は、天にも届くほどにも感じる響きであった。… 「いやいや、悪い悪い」 たぶん、そう…笑われると思っていた昭汰は…少しばかり苦虫をつぶした顔で彼女を見返すので、久美は腹を抱えたまま、手を振り、彼を横目で見る。 「恥ずかしげもなく、そんなん言えるのって、私の知り合いくらいなもんだって思ったからさ、いやいや、世間は広いねぇ…」 とりあえず、弁明にもならない弁明だが、…昭汰は口を閉ざし、先を行く久美について歩く。 「あんたの考えは、まあいいさ…。悪くはないさ」 久美は、そんな風に言い、そして、…こう付け加える。 「でも、そんなんで食えるほど、あまかないだろ?プロ芸人は?」 -分かってるさ- そう言いたかったが、昭汰は口を閉ざし、…もう彼女に答えるつもりもなかった。 「分かってるならいいさ」 無反応に、…久美は、笑うことをやめ、…それから、前を向いた。 「もうすぐで役所だよ。せめて、そのよれよれの襟くらい正しといたらいいよ」 |