=第一章・第七部=
=1日目=

 

 少し寂れた雰囲気。この町の印象が昭汰のそれだったが、…
 なんとはなく、その町役場は目新しさを感じる風貌をかもし出していた。
 言うならば、前衛的というべきか、…全面ガラス張りの二階建てという、田舎町にはとうてい考え及ばない風貌ではある。
「…何、ほうけてるの?」
「いや、…」
 ついてきたはずの昭汰が足を止めたのに、気づいたように、久美が振り返り、話しかけるも、彼はただ、生返事を返し、その足を進める。
「ほら、今日は一応休みだしね。裏口を行くよ」
「…確かに…」
 今日は土曜。…見れば、表玄関には、「受付終了、御用の方は裏口へ」と、掛け看板がかかっていた。
「…まあ、」そんな看板を横目で見つつ、昭汰が小さく呟く。
「こんな風体の建物じゃ、どこが裏口になるのやら」
「ぶぷ!」
 昭汰の言葉に、久美は吹きだし、ケタケタ笑った。
「確かに、それは言えるわね〜、後で設計者に言っといてあげるわ。あはははは」
 …その言葉に、…昭汰は、「知り合いの設計…ねぇ」と、久美を見た。
 こんな田舎にはあまりにも斬新な設計を行う人間とは、いかな人物か、少し興味はあるものの、…それが琴線に触れることでもないので、聞き流すように、久美の進む先についていく。

 そして、久美が表玄関と称された玄関から建物反対向かいの壁にて立ち止まる。
 そこは、何もドアノブもない。…何もない、ガラス壁であった。


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