=第一章・第八部= |
「いらっしゃい、久美。待ってたわ」 不意に、壁向こうから声が上がり、キッという音を上げ、壁が引き開けられる。 「お待たせ、春日さん。ご要望のケーキセットよ」 そこに白いワンピースの女性…というより、少女に近い雰囲気だが、…ガラス越しから、姿を露にした。 「…えっ」 昭汰は目を見開き、その光景に声を漏らす。 ガラスのようなイメージの壁だから、…その建物内の様相を映し出す…。のにもかかわらず、今現れた彼女の姿は見る影もない。 まるで、人の気配のない所から人が現れるという不思議な光景。 「やっぱ、おどろいた?」久美はニシシとした表情で、昭汰を見る。 「このガラス壁は、私達の町の存続を一手に担う企業"ShadowBlain"の試作品ってやつだっけ?」 「ええ、ある特定の波長を放つ装置を持っている人の姿を見えなくするっていう、…なんて、名前だったかしら?」 「なんか、アイツが自慢げに話してたけど、忘れたわね〜」 呆ける昭汰をよそに、女性二人がそんな世間話っぽい事を話す。 「"ShadowBlain"…って、あの大企業の…?」 大企業も大企業、今の日本経済における救世財閥とも言われる、企業[ShadowBlain]。 その会社が試作品を提供する町役場…。に、今、昭汰がいるのだ。 「ええ、ここは"ShadowBlain"の本社がある町ですもの。まあ、そういう意味では当然かしらね?」 あまりの呆け具合が面白かったのだろう。久美は笑いながら、そう言い、「さあ、はいるよ、昭汰」と、手を引いたのだった。 |