=第二章・第三部=
=2日目=

 

 出発はさほど朝早くでもない…時計の針が9時を回った所だろう。
 秋空ながら、未だ暖かいというよりも少し強い日差しの下、昭汰は兎萌を前にして、周囲を見回すように顔をめぐらせた。
 駅前の商店街通りでも、寂しさを覚える田舎街な風景のアーケードであったのに、…
 これから向かうであろう場所は、田んぼと畑のあぜ道を通り、人家も疎らで、…

 簡素…。質素…。素朴…。

 どんな表現をしても華やかしい雰囲気はないのが、昭汰の持ったこの原線路界町のイメージだった。
「静かな町だね」
 いつまでも続くと分からない、穂が黄金色に変わりだした田んぼ道を行く兎萌へ、昭汰が言葉を漏らす。
「…そうね、…」そんな昭汰の言葉に、足を止めた兎萌が軽く振り向いた。
「何も、何もない町よね。この町って」
「あ、いや…えっと、」
 彼女の言葉に昭汰は戸惑い、彼女の機嫌を害したやも、と、言葉を捜す。
「いいのよ。それがこの町では普通なんだもの」
 クスクスと笑い、兎萌は足を進めた。

「何もない町だから、この町は素敵なのよ」


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