=第二章・第五部=
=2日目=

 

「汽車が珍しい…」
「ああ、最近、どこを見ても、電車だからね…。なんていうか、懐かしくてね」
 昭汰の言葉に、兎萌はクスっと笑った。
「なんだか、ナウと一緒の事、言ってる」
 ナウという言葉に、昭汰は顔を上げると、「あっ、ナウって、今から会いに行く人よ」と、付け加えた。
「彼の口癖でね、『新しい物もいいが、古きは大事にしろ、昔の人間の知恵が詰まってるんだからな』ってね」
 ちょっと、威張り気味の胸そらしをしつつ、…まるで、子供にみせるかのように、…鼻息を立てたような仕草を見せる兎萌の姿に、昭汰が噴出した。
「確かに…まあ、でも、それで汽車がいいなんてのも、ね…」
「ナウ的には風情がいい、って事だけど、風情だけで、経営できると思うの!?、って怒られてたから、…そうねって感じだよね」
「その、ナウってのが、あの役場を設計したんだ」
「そうそう、そうなのよ〜」
 兎萌がこれまた楽しそうに笑う。
「あんな、どこにもない物作り出すくせに、言ってる事が古参でしょ。ま、面白い人よね」
 兎萌の口からどんどんと出てくる、ナウ、という人物に、ちょっとばかり嫉妬みたいな感情が沸いたのだろうか、…「そうだね」と、呟いた昭汰の口元は、少しだけ引きつったものだった。

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