=第二章・第十部=
=2日目=

 

「ああ、会社の方ね。それでつれてきたんだ」
 奈右闇は、兎萌の話にほおほお、とうなずいてみせて、昭汰の方を見る。
「ま、確かにこの町じゃ、会社以外に有名所もないしな。…って、あれか。気分気ままに汽車に乗ったら、ここ来ちゃったってパターンくさいねぇ」
「………」
 図星だけに、昭汰は笑う奈右闇の顔を見返すだけに留め、…残りの紅茶を飲み干す。
「ま、なかなか面白いのが着たもんだ。手品師なんて、テレビの中くらいだったからね」
「…そんな大げさでもないですよ。僕のなんて、まだまだだし…」
「いやいや、そうじゃない」
 謙遜ではないものの、ここまで持てはやされると、さすがに気が引けてきた昭汰の答えに、奈右闇は首をただただ、横に振って見せた。
「手品師ってのは、凄いよ。なんせ、本当の魔法の如く、様々な芸を目の前でして見せてくれる。それは、確実に仕掛けがあると、みんな、気づいているのに、だ。その素振りもタネさえも見せないまま、演じきる。これは素晴らしい技術だ。尊敬に値するよ」
 どこまでも褒めちぎる奈右闇。…に、やはり少し気が引けつつも、昭汰は、ただただ、うれしそうに笑った。
「そんな事行ったら、ナウの技術もそうじゃない」
 そこに、兎萌が口を挟む。
「昭汰さんも驚いてたのよ。役場の壁」
「あ、ああ、あれね。アレはたいした事じゃないさ」
 兎萌の言葉に奈右闇はあっさりと否定を入れる。
「あれは単なる技術だ。その理論を知っていれば、誰にでも作り出せる。元々、あの技術の基礎は曾祖母が既に作ってる。俺は、ソレを活用し、仕立て上げただけだもの」
 そう話すが、昭汰にとっては、その技術を応用するだけでも、凄いとは思うのだけど、と、心に思う。
 矢先、奈右闇が昭汰を見た。
「だが、彼はそうじゃない。技術じゃない。技能さ」
 奈右闇はただただ、嬉々として笑う。
「そのトランプは、彼が用意したのじゃなくて、姉さんが戸棚から出したものだろう?それを使って、普段と変わらない様を見せる。そう、技術を噛み砕き、己が物にし、その場にある物でも、臨機応変に、そして、同じ手品をしてみせる。それはもう、立派な技能じゃないか」
 そして、奈右闇は笑った。
「そこまで謙遜する君は、きっとこれから伸びるだろうね。今のうちに、サインもらったら、得意満面できるかもしれないな、これは」
 ただ、そこまで持ち上げられると、昭汰は乾いた笑いが漏れる。

 こんな、他の町では鼻で笑われる事も多い、まだつたない技術で、ここまで持てはやされるなんて、思いもしなかったからだ…。


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