=第二章・第十一部= |
「…栗本さん、あんたは、手品師になったのは、なんでだい?」 不意に、奈右闇がそう問いかける。 「俺は君の技術を素直に凄いと思う。確かに、君の行う手品はテレビにでる華やかな物でも驚きに満ちた物ではない。けれど、…君の目指すのがそこならば、何をどうして、自分を卑下る…。」 そこまでで、一度、言葉を切り、奈右闇は、昭汰が自分を見返したのを確認して、再度、口を開いた。 「今の技術で満足するのもいい、だが。…それを笑う奴がいるから、馬鹿にする奴がいるから、…で自分の努力を止める事は、どうだろう…な」 奈右闇の言葉に、一度、口元を結ぶ昭汰。 「もう一度、聞いてもいいかい?…あんたは、どうして、手品師になったんだい?そして、その手品師になりたいという思いは、そんなくだらない他人の口で諦めるほど、どうでもいい事だったのかい?」 「………」 奈右闇の言葉に、唇を閉ざし、うつむく昭汰。 「昭汰さん………」 それに、見かねたのだろう。兎萌が、小さく彼の名前を呼び、…それから、奈右闇の方を見た。 「…ナウ、それはどうしても聞かないといけない事?」 「いや、どうしても…って、訳じゃないさ。でも、栗本さんは、どうも、手品師でいるのが、いつのまにか、義務、になってる感があってね」 兎萌の言葉に、奈右闇は少し目を見開いた様をみせた後、首を横に振ってみせた。…それから、ふっと、笑い、言葉を続けた。 「どうも、楽しんで、手品をやってる風に見えなかったからね…。そんな芸じゃ、見てるほうもつまらない雰囲気が伝わるし、馬鹿にもするようになる、と思ってね」 その言葉に、昭汰は、軽く振るえ、止まり、「…そうですか、…」とだけ、答えた。 それに、奈右闇は顎をしゃくり、溜め息をつく。 「別に、俺はその答えがほしいわけじゃないさ。…でも、今のままのあんたじゃ、手品は趣味に収めて、普通の生活、普通のサラリーマン、普通の工場員、…そういうのをした方が、生活が成り立つぜ、と、思っただけの事さ」 |