=第三章・第十四部=
=3日目=

 

「そういう事ですか…」それにナツはニッコリと微笑む。
「そんな事を考えておられましたとは、私もその点については、示唆もしておりませんでしたわ」
「…」
 ナツの言葉に昭汰は小さく微笑む。
「でも、それでしたら、休み時間を使うのもありますね」
「休み時間?」
「はい、劇の方ですが、寸劇と合唱の準備の時間に30分ほど、それに催し物を行うクラスの人達にも見ていただけるよう、午前と午後に30分ずつ、その3回をこの食堂の一角で行うというのはどうでしょう」
「…なるほど、…」
 ナツの言葉に昭汰は頷いた。
「そうすれば、全校生徒にも見てもらえる算段は取れるかな?」
「私もプロの手品師の技を見てみたいものです。テレビを通してでは分かりえないその不思議な技」
「はは…、ちょっと大げさですよ…。僕の技は大掛かりなショーじゃないですし」
「プロとしての技術を目の当たりにする事も、生徒達にとっても、大きな糧になりますでしょうしね」
「はは…は、…」
 昭汰は思う…。

 この町の住人は、やけに手品師を持て囃す傾向にある事を…
 確かに、普通に考えれば、手品には仕掛けがあり、それを越える事はない。
 だから、一定の眼差しはあっても、それ以上のものはない。
 確かに、そうだ…。確かに、一定の眼差しは、この町にはある。…

  でも…

「昭汰様、どうされました?」
 少し考えことをしてたのだろう。
 昭汰は、幾つか話しかけられていたであろう事を聞き流したようで、ナツの心配そうな言葉にハッとした。
「あっ、ごめん、…少し、考え事を…」
「そうですか…、そういえば、お茶をお持ちしてませんでしたね。今、お持ちいたします」
「あっ、はい…」
 そう言って、食堂のカウンターへ走り出すナツを昭汰は、後姿で目で追いかけつつ、再度、頭の中をめぐらせた…。

  手品をマジックという事に、この町の住人は抵抗があるようだ…。
  奈左水先生が、言いなおす様は、何かおかしい雰囲気もあった。

「やっぱり、ここは…不思議な町だな…」
 昭汰はそう呟き、…ナツがカウンターでお茶を受け取る様を眺めていたのだった。


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