=第三章・第十七部=
=3日目=

 

 昭汰の言葉に、無言で箸を勧めていた奥に座る美矢さえ、動きを止める。
 そして、その答えを模索するように、彼らは見合わせた。
「あっ、いえ…いいです。た、たいした事じゃないんですよね」
 少々、ただならない雰囲気に昭汰は言葉を改めた。…が、それに対して、奈右闇が口を開く。
「不自然すぎたね。…いや、すまない…。そういう事を注視すべきだった」
 その奈右闇の口ぶりに、直也と真吾が視線を送り、美矢も小さく視線を向け、奈々美と久美は互いを見合わせた。各々の思惑あっての行動に、奈右闇が小さく手をかざす。
「実は、この町には、そういった不可思議な事。…そう、[魔法]といわれるものが存在するんだ」
 いきなり、そういう事を言われれば、さすがに聞きなおしたくなる表情を見せるのも節理だろう。

  魔法が存在する…

 その言葉に、昭汰は二の句もなく、奈右闇を見直した。…所、奈右闇がニッと笑う。
「という、昔話がこの町にはあるんだよ」
 そう言って、軽くお茶を口にし、喉を潤してから、奈右闇は言葉を続けた。
「つまり、この町には、そういった昔語りを信じる老人が多くて、それを鵜呑みした親もいて、そう言い聞かせられた俺達も、[魔法]はある。…と、真髄にあるって事さ」
「はあ、…」
「だから、俺達にとって、[魔法というのは実在]するものであって、[タネも仕掛けもある手品]はそれだけでしかない。だから、俺達は、手品は手品と読んでるのさ」
 奈右闇の言葉に、昭汰は「なるほど」とだけ、返す。

  確かに、魔法が存在すると信じる人が大勢といれば、自然、そういう事になるんだろう

 そう、考えた昭汰の耳に、チャイムが鳴り響く。
「おっと、昼休憩ももう少しか…じゃ、昭汰さん、どういう企画で行くか、楽しみにしているよ」
 同じく、チャイムの音が耳に入った奈右闇はそう言い、席を立つ。
「じゃ、またね」
 と、久美も声をかけながら、次々と席を立っていった。のを、昭汰は手を軽く振って、見送ったのだった。

「いいのか…」
 昭汰から離れ、…程なく、真吾が奈右闇に声をかけた。
「…よくないさ、…」
 それに、奈右闇は言葉を返す。
「元々、この町は特別だ…。何を手違えたか、…彼がこの町へ来るダイヤルを見つけたのかは、分からない。…でも、来たという事は、根本的に通ずる何かがあったんだろう…」
 その言葉に、真吾と後についてきた直也が奈右闇を見る。
「できれば、彼にとって、ただの一つの町として、…流しておきたかったが…、[
ShadowBlain]を紹介してきた兎萌の意思を考えれば、…しなくちゃいけないんだろうな…」
「…そうだな。…この町の事を、深く世間に知らせてはならない…からな」
 奈右闇の言葉に直也が賛同する。
「だが、…」真吾が小さく言葉を挟んだ。
「だが、やはり、気が進まないな…。せっかく、素晴らしい一時をくれる客人に…、処理をするなんて…な」


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