=第四章・第三部=
=4日目=

 

「…杉田さんは…」「知美で良いわよ、苗字は同じの多いし…」「あ、…はい」
 田んぼ道沿いに共に歩く杉田に向けて、昭汰が声をかけると、彼女は笑い、返答する。
 自分より年上の彼女の言葉と微笑みに、ドキッとしながら、…昭汰は息を整え、再度、杉田に尋ねた。
「知美さんはなんで、こんな田舎で喫茶店を?…」
「ダメかしら?」
「いえ、…でも、あのコーヒーなら、もっと繁華街のある…」
「ふふ、あった時にも言ったけど…、あの豆は、ここじゃないとダメなのよ…。それに、私はこの町を出る気がないもの、…」
「…」
「例え、眼が飛び出るほどのお金を積まれてもね…」
「…そうなんですか…」
「ふふ、そうかもね」
 彼女の歳相応というか、それらしい頬のほうれい線がのぞめるも、…そのこまっしゃくれた笑顔はまだ若さが通る…そんな美しさも持ったもので、…その顔を昭汰に向けながら、言葉を続けた。
「そう、私はこの街を出たいなんて…一度も思った事、…ないわ…」
「…」
 その表情に、昭汰はただ押し黙り、見とれていたのだった。

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