=第四章・第五部= |
「なんででしょうね。…ここへ着て、日も浅いのに…」 昭汰はそう呟き、周りを見渡した。 相変わらず、そこは穂を満たした田んぼという黄金野が広がり、潮騒のように波立った。…そんな光景が広がる。 「故郷が恋しくなった?」 杉田の一言に、昭汰は首を横に振る。 「僕の町は、…それでもちょっとした市でしたから、こんな風に田んぼが広がってる所じゃないんです。…でも、なんでしょうね。この景色。懐かしい…を通り越して、僕は元々から、ここに住んでる。そんな気にさせるんです」 「じゃあ、住んじゃう?一応、私の店の上に空き家はあるし、私は別に家があるから…、それに」 杉田はそういって、町に視線を向けた。 「見たでしょ?…あの町の商店街のいくつかは、もう運営していない。…だから、住む場所も特に困らないわ」 そう言われて、昭汰は小さく首を振った。 「…僕は、商才がありませんよ。…それに農業も。…ただ、自分が分からないから、今、一生懸命、この芸を磨いてるのかもしれない。今は、ただ、…僕がこの子供の頃に持った思いを成し遂げられるか、それが大事です。本当に駄目なのか、どうか。…奈右闇君の言葉で、僕は決めました」 杉田を見て、昭汰は笑う。 「テレビに出れるほどの実力がもてたら、きっともう一度、…この町へ戻ってきたい、と思います。…でも、駄目だったら…」 「駄目だったら、…」 「駄目だったら、この町で小さな店でも構えて、がむしゃらにがんばってみたいな…とも思います」 昭汰の笑顔に、杉田は…少しだけ曇った顔を見せる、…も、すっと、微笑を湛えた。 「そう、そのどちらの時が来たとしても、…私は歓迎するわ。あなたを…」 |