=第四章・第七部=
=4日目=

 

「ハロ〜、おば様〜」
 カランカランっと、ドアベルと共に軽やかな声が店内に響いた。
「ありま、珍しい〜お客がいる〜」「ふふ、いらっしゃい、そろそろだと思ったわ」
 と、来店したのは、…前日、学校の食堂で見かけた。…
「奈々美さん?」「お、え〜っと、そだ、手品師!!」
 昭汰の言葉に、ビシっと指差す奈々美。へ、昭汰は、ただ苦笑を返す。
「栗本昭汰です。よろしく」「私は九白奈々美。よろしく〜」
 元気のいい受け答えに、そういえば、奈左水の言った[有名な頭のネジがおかしいお馬鹿]という単語を思い出した。…が、とりあえず、昭汰はニコっと返しておいた。
 そんな奈々美は、タタ〜っと走ってきて、昭汰の隣に座ったかと思えば、1000円札をポンっとカウンターに置いた。
「はいはい」杉田はクスクス笑いながら、奥の冷蔵ショーケースからいくつかのカップケーキとショートケーキを取り出し、トントントンと彼女の前に置いていく。
 ちょっと不思議な光景に「?」を浮かべる昭汰へ、杉田は「あれよ」と、指差した。

  -火曜日、ケーキ食べ放題 ¥1000-

 手書きの簡単なケーキの絵を入れたチラシが壁際に飾ってあり、昭汰は納得した。瞬間、
「おかわり〜♪」
 と、高らかに宣言する奈々美。
 ギョッとした昭汰が振り向くと、中身がもう消滅していたのだ。
 皿も嘗め回した所か、カップケーキの紙についてるはずのスポンジも綺麗になっており、なんとも言えない。…凄いものを見る心境だった。
 そんな奈々美の前に、再び置かれるケーキの皿、皿、皿。
 来る先来る先、小さなフォークでグサっと刺したかと思えば、ものの数秒で皿から消え、…
 その隣に、ドンドンと、積まれていくぴかぴかに輝く、皿、皿、皿。…
「…」「昭汰さんもいかが?」「…いえ、…甘いのは…ちょっと」
 の前に、目の前に積みあがる皿を見るだけでも胸やけがしそうになるのを押し隠して、…コーヒーを口につける間もなく、見入っていた。
「あの、…大丈夫なんです?」「ん?彼女の事?」「いえ、…えっと」
 クスクス笑う、杉田に、こんな食い方をする彼女の心配ではなく、食い放題でもあまりな勢いだったのに、店の経営を心配しかね、声をかけた訳だが、彼女は平然としたものだった。
「大丈夫よ、もうそろそろ、来るから」


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