=第四章・第十部= |
「やあ、やあ、良く来た」 少々甘ったるさもあったのを半ばコーヒーで流し込んで、またあの長い階段を上りきった昭汰の前に、両の手大きく広げ歓迎の態度を見せる奈右闇が玄関先に立っていた。 その脇には、メイド服の晴れるような空色の髪の女性が立っている。 「話は、久美と奈々美から聞いてるよ。災難だったね」 「え?」 話の切り出し方が少しおかしい具合に、少し息の上がっている昭汰は、挨拶を返さず、微妙な粋を返す。 それに、奈右闇は耳元に口を寄せ、「奈々美の食いっぷりは、まさにゲップもんだったろう」と、囁いた。 「いや、まあ…。…そうですね」 改めて、言われると、…思い出すだけで、またこみ上げてきそうな雰囲気になる昭汰は、「そうですね」を繰り返すしかなかった。 「マスタ〜ァ、お話済みました?」 男二人寄り添う様相に、業を煮やしたのだろう。残されたメイドの彼女が声を上げ、頬を膨らませる。 「お、まあまあ、落ち着けって」 その言葉に奈右闇は笑い、彼女を手招いた。 先日に会った[ナツ]に比べると、少々大人びた身長であるが、その顔は童顔とも見える顔立ちにいささか非現実感を覚える感じを受けた。…その女性が、二人の前に立ち、スカートのすそをつまんだ姿で昭汰に向かって、お辞儀をしてみせる。 「私は、ラナ・セレクンと申します。昭汰様、…私の事は、ラナとお申ししください」 「あ、はい…、栗本…昭汰です。よろしくお願いします。」 その、どこか子供の持つドール人形にも感じる、彼女の挨拶に軽いお辞儀を返しつつ、奈右闇の方に目で問いただす。 「久美から聞いてるよ。本腰を入れるみたいだね?だから、彼女を助手に使ってほしいとつれてきたんだ」 「じょ、助手!?」 奈右闇の言葉に、目を白黒させつつ、顔を上げたラナを見ると、彼女は「どうぞ、なんなりとお申し付けください」と、言った。 「い、いや、そ、そんな大層な事、じゃないですし!!」 「でも、手伝いをしてくれる人がいたほうが、演技にも集中できるだろ?」 「そ、それは…」 「行える時間の配分は、ナツの方から聞いている。一回の演技に30分だけだそうだね。…それで、演目を考慮しても、品出し等のサポートもあれば、もう2〜3は芸ができると踏んでるんだが…どうかな?」 「…」 少々、怖気づきながらも、昭汰は「そうですか」と頷き、二人に向かって、大きくお辞儀をしてみせる。 「ありがとうございます。精一杯、がんばらせていただきます」 |