=第四章・第十一部=
=4日目=

 

 兎萌が校内を走る。それは誰かを探してるようだった。
 そして、彼女はその誰かを見つけたのだろう。…
「ナウ!!」
 と、声を張り上げ、歩く彼を呼び止めた。
「おお、兎萌、なんだ?」
「ラナを…貸したの?」
「ん?ああ、ラナなら、色々と小回りが利くからな。試運転にはちょうどいいだろうさ」
「でも、ラナは、まだ!!」
 奈右闇のひょうひょうとした面持ちに、兎萌が声を張り上げるが、それに、彼は、人差し指を軽く立てた。
「あのな、兎萌。そんなに声を張り上げたら、彼が顔を出すぞ。…まだ、近いんだ」
 ぐっと、言葉を呑んだ兎萌だったが、「…でも、」と、その言葉が漏れるのに、…奈右闇が微笑む。
「彼は結局、ここでの生活の事を忘れるんだ…。分かってる」
「…」
「でもな、ここで積み重ねた手品師としての力は、記憶じゃない…。彼の糧だ」
 奈右闇は微笑み、兎萌を見る。…
「幾つもの町村を訪ね歩いた、忘れいく記憶と同じく、消えるだろう。この町の事、…でもだ」
「…」
「君だって、彼のこれからの活躍を期待しているんだろう?だから、…未だに家に泊めている」
「…、…」
「だから、ここでの人を喜ばす事を再認識したならば、…きっと、彼は大きく花開く可能性もある」
 奈右闇の言葉に、兎萌は…小さくうなずくかのように…でも、うなずくと言うより、うつむくように…
「…、…」
「惚れたか?」
「そんなんじゃ!!」
「是が非でも彼をこの場に残したいのなら、俺は許すが…ついていく事は許されない。それが今のお前の限界だ」
「分かってる…分かってる!!でも、分かってるけど!!!」
「だから、大声を出すな…そう言っただろ?」

 そして、奈右闇は兎萌を見て、小さく溜め息を吐いた。

「彼の記憶を消してほしい……そう言い出したのは、君だ…。分かってるだろう?」
「…、うん…」
「外へ行くには、お前の能力を押さえ込む…。その修行を続けないといけない。分かるな…」
「うん、」
「そして、その修行を終えた時、君が外へ出れたとしても…もう、君の事など、忘れるように…そう願った。…その気持ちは、偽りは無かった…、そうだろう?」
「…うん、…」
「ラナを貸したのは、…そう、その前準備でもある…。彼から、この町を消し去る…その前準備だ」

 それから、奈右闇は次の言葉を継げて、兎萌を残し、歩み去っていったのだった。

「兎萌…お前が、惚れた男は、外の世界の人間なんだ…」


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