…お客様…。 その単語は、やはり、昭汰の心に引っかかる…。
確かに、その通りだ…。僕は、ここに客人であるのは確かだ…。
だが、彼らの言う、お客様、には違和感を覚える。
そう、マジシャンを手品師とこだわるような、…何か。
得体の知れない何かが、僕の周りに広がっている感じだった。
真っ白なA3用紙に行う手品の手順、それに伴う準備、作業を書き出しながらの相談中に彼は、そんな事を頭によぎらす。
「どうかされましたか?」
「いや…、…」
無言で塞ぐように考え込む昭汰の顔に少し不思議そうな顔をするラナ。
そんな彼に言葉をかける彼女だったが、昭汰もまた、口元をくぐもらせて、言葉を濁す。
「ちょっと考え事をしてたんだよ…。ごめん」
「そうですか。何か、ご入用でしたら、お申しつけください」
体調が優れないと判断したのだろう。ラナは軽く席を立ち、戸棚に視線を向けた。
「あっ、いや、体調とか、そういうのは…。…」
とは言ったものの、彼女の優しい視線に、彼は軽く閉口し、「じゃあ、コーヒーの方を」と、空になりかけたコーヒーカップを差し出した。
「かしこまりました」
それに、ラナは小さくかしずき、コーヒーカップを手に取る。
その彼女の行動も、どこかぎこちない…。
確かに、表情も柔らかく、動きもてきぱきと…
いや、どうにも、テキパキ過ぎる…。
それは、ナツにも感じた違和感…。
それが何なのか、僕は分からないが…。
「お待たせしました」
注ぎ終わったコーヒーカップを手元に添えられると、小さく波打った波紋が水面を揺らし、それから、静寂を取り戻す。
そして、彼女は、自分の席に腰を戻し、それからニコリと微笑んだ。
「では、続きをいたしましょう」
|