=第五章・第五部= |
チャイムが鳴り響く。ここへ来て、何度と聞く、久しい音。 自分が学生にでもなった気分になれる。そんな音だ。 「昼食のチャイムですね。では、食堂へ参りましょう」 チャイムの音と共にラナがそう言葉を漏らし、腰を上げた。 「…、でも、学生でもないですし、お金だって」 「マスターが今回の出演料の込みと言っておられましたよ」 「それは、…まあ、だったらいいですけど」 やはり、どこか、他人だからこそ、遠慮が生まれる昭汰だったが、そのラナの言葉に、少しだけ息をついて、言葉小さく受け答え、…それから、彼女に聞こえないように「まあ、妥当な出演料かな…」と、呟いた。 「昭汰様、ちゃんと別途に出演料はお払いするとの事ですけど」 瞬間、彼女がそう返答するのに、昭汰は吹き出す。 「え、今の聞こえました?」 「はい、聞こえましたけど…?」 彼女の疑問符に、昭汰はただただ空笑いを漏らす。 確かに、自分と彼女以外いない状態で、静かな環境ではあるのは確かだが…。 だからといって、…自分が聞き取れるほどの言葉を机を挟んで向こう側にいる彼女にまで届くとは、到底思いもしなかったのに…。 「まあ、いや、…その、…僕の勘違いですから、そこは笑って流してください…」 「そうですか。分かりました」 とりあえず、取り繕おうと声を漏らす昭汰に、ただただニッコリと微笑むラナ。 そして、「では、まいりましょうか」と、付け加えたのだった。 |