=第五章・第六部=
=5日目=

 

「どうだい?」席に着き、ラナが運んできたサバ定食を前に箸を取り上げる昭汰に、声をかける奈右闇。
「本番はもう明日に迫っているが、準備の方はどうだい?」
「え、ええ…」昭汰は、取り上げた箸を再度置き、目の前に座る奈右闇を見て、微笑んでみせる。
「順調ですよ。ラナさんは凄いですね。一度言った事は、なんでも確実にこなしてしまいますから、…」
 そういって、今、食堂の手伝いにでむいた彼女の姿を目で追う。ただ、混雑で見えはしなかったが…。
「はは、それはよかった。紹介した俺としても胸撫で下ろすことが出来るよ」
 彼の言葉に奈右闇は、心底、…ほっとしたのだろう。
 いつも見せる少し自信を帯びている瞳の光に陰りが覗いた…。
 それも束の間、奈右闇はニッコリとして、指先で自分も持ってきたサンドイッチの包みを指差す。
「まあ、とりあえず、食べながら話そうじゃないか?」
「え、ええ…はい…、奈右闇君はそれだけで?」
「そうだね、あんまり腹に入れると、俺、寝てしまうんだよ。授業…」
 そう言いながら、包みを破き、「次の授業、寝ると叩かれるんでね」と、付け加える。
「授業をサボるとか、僕の学校ではあったけど…」
「一応、優等生の風貌を見せとかないと、母さんがうるさいんだ…。一応、この学園の管理職だしね」
 奈右闇は少しだけ、ぶっきらぼうに言いながらラップをピッと引っ張る、…そして、小さく千切れるパンくずに、少し舌打ちしたような息を吐いてみせた。
「へえ、…それは大変ですね」
「たく、…あんな簡単な数式なんぞ、習う必要もないってのにな…」
 パサついた感のあるパンを半分口に押し込み、ムシムシャと噛み締めながらぼやく彼のを尻目に、昭汰も味噌汁で口の中を湿らし、御飯を放り込み、モチモチと何度と噛んでみせる。
 ただ、やはり、水分がほしかったのだろう、奈右闇はヒョイッっと昭汰の水に軽く口をつけながら、「ところで、この後は、ここで練習かい?」と、言葉を漏らすのに、驚き半分、ちょっとだけ眉をひそめながら、昭汰は言葉を返した。
「そうですね。さすがにもう本番と同じ体制で」「マスター、みっともない真似しないでください!!」「のリハーサルが必要ですし…」
 その光景を見ていたようで、突如、二人の机の前に仁王立つナツがデンっと大きな声で、昭汰の気持ちを代弁するように言い放つ。
 ただ、それが、昭汰の言葉を遮らなければ、満点だったような気もするが…。
「もう、お食事時に、お飲み物がほしいんでしたら、コールしてくださいって、言ってますでしょう!!また、久美様に怒られますよ!!」
「あ、ああ、悪い悪い、悪かったって…」
 どうも、いつもの事のようだ、…と、昭汰は思いつつ、…箸を軽くおいて、息を抜いた。
「今度は気をつけるよ」と、うそぶきつつ、サンドイッチの残りを口に投げ込んで、数回噛んだ後、飲み込み、立ち上がる奈右闇。それから、彼はニッコリと笑い、言葉を続けた。
「昼休憩が終ったら、食堂を空けるように言っておくが、1時間ほど、片付けもあるからな…。一度、飾り付けの終っている体育館とかを回ってみるのも一興だと思うから、ラナと散歩してくれればいい。それじゃあね」 

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