=第六章・第一部=
=6日目=

 

 今日が本番の日…。
 晴れやかな秋晴れだった。
「昭汰さん、朝ですよ」
 最近では、聞きなれてきた兎萌の声が、彼が寝室として使っている居間にふすま越しに響く。
「本当に毎日、ありがとう」
 居間を出て、彼女の後ろ姿が見えたので、昭汰は声をかけた。
「君には、お世話になりっぱなしだね」
 昭汰の声に彼女は振り向く。
「私は、…そんな…、昭汰さんには」
「そうかな…」
 少し照れくさそうに笑う彼女の顔を見つめながら、昭汰は言葉を続ける。

  君が僕をこの家に泊めてくれるように頼んだから、僕はまだこの町にいられた。
  君が僕を奈右闇君の所に連れていってくれたから、僕は、芸に磨きをかける意味を知った。
  それに感謝をするばかりだよ

 昭汰の言葉に、兎萌は少し頬を染め、「もう…」と、そっぽ向く。
 それから、少しして、彼女は肩を小さく落として、「昭汰さん」と、呟いた。
「私、テレビで活躍するような芸人になれるように、…応援しますね」


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