=第六章・第三部=
=6日目=

 

   カランカラン…。

 この町に訪れてから数日…。少し聞き慣れたドアベルの音。
 そして、「いらっしゃい」という、杉田知美の言葉。
 ただ、彼女のいでだちは店にいるいつもと違い、出かけ支度を済ませた装いだった。
「ごめんなさい、今日は私も学園に足を運ぶつもりだったから、コーヒーはないわ」
「いえ、…」
 人のいない喫茶店ではあったが、今日は始終閉店のつもりか、…厳かに流れるラジオの声もない。
 本当に、静かで、昭汰と知美の声だけが響き、静寂の中に消えていく…。
 …絶えかね、「それは、そうと」と、昭汰が切り出した。
「何か、御用ですか?僕もなるべく早めに、最終段取りをラナさんとしてしまいたいので…」
「え、ええ…そうね。ごめんなさい、呼び出したりして」
 手に持っていたポーチをカウンターに置き、それから、知美がニコリと微笑む。
「最後に、もう一度、あなたの顔を見ておきたいと思ったの…」
「え…?」
 知美の言葉に、昭汰は一瞬、キョトンとした表情になる。
「知美さんは、…文化祭に来られないのですか?楽しみにしてる、と言ってましたから」
「ええ、もちろん、出るわよ。この町の大きなイベントの一つだから…」
 知美がクスクスと笑い、…でも、その瞳には少し寂しそうな感じで愁い…、それから、首を軽くかしげながら、昭汰に微笑みかける。
「ただ、あなたとこうして、面向かって、…顔を見るのは、これで最後なんだな…と、思ったのよ」
「…、…?」
 昭汰は少しいぶかしげに、眉をひそめ、知美を見返す。


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