=第六章・第七部=
=6日目=

 

 前日の遅くまで打ち合わせを繰り返し、品出しの手順も何度となく確認し、そして、今日、
 自分の演技を披露する。

 それは、昨日までと同じ、特別設置された食堂の舞台であるにもかかわらず、
 開かれたドアの向うに臨めると、…徐々に鼓動がおかしいものになっていくのを彼は感じた。

  「あっ、来た!」「来たよ!!」

 そして、食堂にと足を入れた瞬間、その舞台の前に、小さな子供達が溢れかえっていた。

「…、え?…」
 一瞬、呆けるように周りを見る昭汰に、少年少女達は、その期待に満ちたキラキラの視線を彼に浴びせる。
「やあ、待ってたよ」
 昭汰の戸惑いに、微笑を漏らす奈右闇が、子供達の束をまとめるように、傍らに立ち、そう昭汰にと語りかけた。
「奈右闇…さん、?」
「まあ、最終調整は昨日、見させてもらった…。悪くない出来だったよ」
 昭汰の少し素っ頓狂な声に、奈右闇は顎元を撫でて、言葉を続ける。
「本当なら、生徒達にってのがあるんだが、この文化祭は、あまり娯楽のない町の一大イベントなんでね」
 そう言いながら、奈右闇は子供達に視線を向ける。
「兄貴、姉貴、大人に混じって見るよりかは、子供達だけで見せてやりたいな、と思ったわけだよ」
 これから始まることに胸ときめかす輝かしい表情の子等に、奈右闇は目を細めてみせる。
 そして、長い一呼吸ほどを置いて、昭汰の方へ振り返った。
「どうだろう?彼らのために、もう一舞台、お願いできないだろうか?」
 その言葉に、昭汰は口を結ぶ。
 ただ、その口の結びは、小さな弓形を見せた後、「もちろん、構いませんよ」と、ほがらかな声で承諾してみせた。


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