深緑の森精 |
ねぇ、お話の続きをして…アドル… 「もうお話は終わりさ…」 暗闇の中、木の根に埋め込まれた胸像のようになっているアドルはその姿のないファエルの言葉に軽く首を横に振る。 もっとしてよ… 「僕にはもうお話できるものはないよ…ファエル」 アドルの言葉には変わることがなかった… 私は、外に出たことがないの だから、外のことを知りたいの… だから… 「僕のお話の続きはもうないんだよ…僕には…今まで経験した事でしか…話すことはできない…」 暗闇の中でアドルは苦笑にも似た微笑が漏れる…。 何より…まどろみを感じ始めていた…。 「僕は物書きじゃないからね…冒険者だから…お話も…冒険でしか…言え…ない…んだ…」 まどろみが襲う…眠気が襲う…急激な体力の浪費を感じる…。 草木が土より養分を吸うかのように…アドルの体力を吸収していく…。 けれど、彼は抗うことができない…失われていく体力を少しでも取り戻そうと…体は眠りを欲する…。 もうできないの、アドル… お話はできないの… 私、もっと聞きたいよ…もっと聞きたいよ… 私は、ここから出て行けないから…もっと、お話が知りたいの… ワクワクがほしいの、ドキドキがほしいの… 「…ファエル…、ドキドキもワクワクも…お話だけじゃ…ダメ…なんだ…よ…」アドルはゆっくりと目を閉じる。 「自分で体験して…は…じ…めて…それ…が…わか…る………ん」 そして、彼の瞳は本当の暗闇に閉ざされた… アドル、ドキドキもなくなるの…ワクワクもなくなるの… アドル、いなくなると…それも分からないの アドル、答えてよ…私はアドルといたいの…いつまでもいてほしいの アドル、お話が聞きたいの…私はいつまでも聞きたいの… アドル、お話をしてよ…眠らないで… アドル、私、貴方には死んでほしくない…殺したくない… だから、目を覚まして…目を覚まして…死なないで…殺さないで… ドゥエル、殺さないで…アドルを殺さないで…アドルを殺さないで!! |