深緑の森精 |
バギッ… その音は…遠くから聞こえてくる…。アドルはまどろみの闇の中で聞いている。 木の幹を無理に引き剥がす凄まじい破壊音…そして、何か野太く力強いものが衰弱しかすかにしか感じることがない感覚を刺激した。 何か頭の奥で声が響く…力強い…男の声…。 …その意識は…徐々に…徐々に増していく。胸辺りに心地よい温かさが生まれていくと同時に…視界もはっきりし始めた。 「ドギ…」 「よぉ、お目覚めのようだな…さながら、眠りの森の王子様…かな」 「悪い冗談だね…」 「だな…」 目の前には、ドギの姿があった。その頬骨と唇を上げた無骨な笑みで寝転がるアドルの髪をクシャクシャと撫でまわす。 「まったく、お前の無茶にもホトホト…飽きてきたよ」 「僕は…どうして…それにドギはここに?」 アドルは身を起こし、まだクラクラとする頭を押さえながら、ドギに訪ねると、ドギはニヤッと笑う。 「こいつを渡されててね」 その手には、小さなガラス瓶が乗っていた。 「これは…生命の薬」 「あぁ、生命の薬…エリクサーだ」 イースでの戦いで、ダームとの最終戦で使った秘薬。魂さえも呼び戻し、肉体に戻すと言われる霊薬である。 「お前の嫁さんに渡されてたんだよ。お前が無茶して、危険にさらされた時のためにってな」 「?…嫁…」 ドギの含み笑いにも似た答えにアドルは一瞬思考をめぐらせる。 「………あっ」 ふと、その記憶に過ぎったのは紅い髪の少女…「リリア…」…その一言に、ポカッ!!と何かに殴られた。 「なに!?」 「そして、そいつがもう一つの答え…俺がここにいる理由だ」 仰天した表情のアドルを見て、さらに楽しそうに笑うドギは顔をしゃくってみせる。 「ファエル…」 「もう、せっかくその人を呼んであげたのに!!」 そこにファエルが少し頬を膨らませたファエルが立っているのに、何が何か分からず、目を白黒するアドルにドギは耳元に口を寄せる。 「この女泣かせ♪」 「なっ!!」 一瞬、その言葉に体が再び麻痺したかのような感覚が襲ったかと思うと、憤怒の感情が襲い掛かる。 「嫁さんに告げ口しちまおうか」 「リリアとはそんなんじゃないよ!!」 「じゃぁ、なんなのよ?アドル君?リリアちゃんとは、どういった関係なのかなぁ?」 「…ぐ………」 ドギの憎たらしさまでの感じる問いにアドルは口をつぐみ、「それで…ドギはどうやって来れたんだ」と尋ねた。 その言葉にドギはスッと真顔に戻り、もう一度、ファエルのほうを見ながら答えた。 「だから、そこにいるファエルが教えてくれたんだよ。この迷いの森と呼ばれる所でな…」 「迷いの森…?」 「そうさ、ここに来る途中の村でも結構有名な噂話なんだぜ。この森では…小さな女の子の妖精が人をさらっていくってね…」 ドギの言葉にアドルはハッとした様にファエルを見た。それにただただ、ファエルは少し寂しそうな表情でうつむいている。 「ファエル…」 「私、最初はそんなつもりはなかったの…」アドルの問いただしよりも早く…ファエルは口を開いて、語り始めた。 「私は、最初はそんなつもりはなかったの…私はただ、アドルのように旅をしている人の話を聞いてみたかっただけ…私は動けないから…私は外の世界が知りたかったから…だから、通りがかる人を捕まえて、一晩のもてなしの代わりに旅のお話を聞かせてもらっていたの…」 |