=第一章・第一部=

=[超時空要塞MACROSS/セレモニー]=

 

 長く続いた統合戦争も終止符を打ち、争いの要因となった飛来物の修復も終わった、二〇〇九年。
 それは陽射が満天に降り注ぐ春の昼間。
 宇宙の飛来物であった物が、戦艦マクロスとして生まれ変わり、その進宙式典でトラブルが発生した。
 俺達の向かうマクロス艦の主砲システムが突如作動、轟音と強烈な閃光が自分達の眼前の空を引き裂いていった。
 俺は戸惑う仲間の声をインカム越しに聞きながらも、退屈な平和にまどろみを覚える頭が覚醒していった。

「よおし、ひよっこども!遅れを取るなよ!」怒声にも似た上官の声がヘルメットのインカムを通して、脳天を揺さ振った。
「十二時の方向に敵機を確認!これより、迎撃に入る!各機、散開、一機も逃すな!!」
 戦争がまた始まったのだな。俺は隊長機前方に見える機影を確認し、口元が上がる。
 俺の求めるものがここで手に入るかもしれないから…

  スドン!!
 急激に空気を吸いこんだエンジンが爆音を上げる。
「お、おい!!」インカム越しに仲間の慌てる声が聞こえる。
「いきなり編隊を乱す気か!」
 俺は軽く口元を上げ、インカムに言葉を返す。 「トロけた事言うなよ。各機散開、迎撃だろうが。」
「てめえ!」
 仲間の悪態を受け流し、レーダーだけの確認から視認域に達した俺の眼に敵の機体が映る。
「あれが、異星人か…」
 ずんぐりとした緑の三角錐の群生、それが第一印象だった。
「少しは、楽しませてくれるだろうな…」
 少し乾いた唇をなめる。前方に映し出されるレーダーに赤いマーキングが舞い、敵機を次々とロックしていく内に、瞳の奥に黒い炎が宿るような事を感じ始める。

 …キタ。キタ。キタゾ。

 頭の奥で何かが話し掛ける。
 聞きなれた声。戦争が終わって、暫く聞くことのなかった声。
 響くほどのどす黒い音が…心を打つ。
 その最中、全ロックオンの音が響いた。

 …キタゾ。キタゾ。キタゾ。

「ああ、分っている」頭の声に俺は答える。
「今、たんと食わせてやるよ」
 声色に染まった瞳をゆがめ、トリガーに指を叩きつける。
 軽い爆裂音が機体に響き、左右の視界から白い輝線が伸びる。
 輝線は尾を引き、前方にある目標に向かって飛んでいく。

  ドン!…ドドド!!

 一発の破裂音が響き、前方に赤い火花が上がったかと思うと、丸い黒煙に変わった。
 黒煙の色を吸収した瞳が、黒き輝きを増す。

 …モット、モット、モットダ。

「ああ、分かっているさ」
 頭の声が嬉々とした声を上げ、更に俺に要求する。俺はそれに、口元を舐めて、ほくそえんで答える。
 加圧するようにエンジンへ空気を送り込むペダルを踏む。機体は軋むほどに速度を上げる。
 黒煙を横切り、無数の三角錐の浮かぶ空域に飛び出した。
 黒い瞳が歓声を上げる。

「さあ、宴の始まりだ!!」

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