=第二章・第九部=

=[超時空要塞MACROSS/帰還]=

 

「バルキリー部隊指揮、フォッカー少佐、入ります」
 マクロス中枢の一室のドアが開き、そこに敬礼をするフォッカーが室内に向けて申告する。
「うむ、ご苦労だった…」
 それにU字型の会議テーブルの中央に座するグローバル艦長が神妙な面持ちで口を開いた。
 その言葉にフォッカーは敬礼を解き、あてがわられた一席に腰を降ろした。
「これで揃ったかな…早瀬中尉、報告を行ってくれたまえ」
 グローバルが席に座るメンバーを確認し、そして左手末尾に座る未沙に報告を促した。
「はい」未沙は席を立ち、グローバル正面の巨大モニター前に立つと、モニターを切替えて、報告書を持ち直す。
「現在、マクロスはフォールドの失敗により冥王星軌道上を遊回しています」
 モニターには中央に地球を置き、マクロスの現在位置を示すマークが表示される。
「また、先のフォールドによりフォールドシステムは消滅。現行、通常運行による地球への帰還を余儀なくされています」
 未沙の言葉に合わせて、モニターのマクロスのマークが地球に向けて、点線が結ばれる。
「マクロスの通常運行での飛行速度であれば、一ヶ月以内の帰還は可能ではあります」
 未沙がそこで言葉を切ると、モニター画面に小さな付箋がマクロスと地球の軸線上に添えつけられる。
「しかしながら、先の戦闘でも分かる通り、その行く手には異星人の攻撃が待ち構えているものと仮定でき、帰還は…未知数のものとなります」
「地球とは、連絡は取れないのかね」
 途中、グローバル艦長が未沙に問いただす。
「すでにフォールド通信機能は確立していますが、その通信を傍受される危険性は高く、現段階での使用は留意した方がよろしいかと…」
「う…む、いや、分かった。報告を続けてくれたまえ」
 艦長の考えに、地球とコミュニティを取り、今後、どういう方針でいくかを決めたかったのだろう。…未沙の答えに苦虫を潰したような息を漏らし、帽子を被り直す仕草をした後、続きの報告を促した。
「続いて、マクロス内部による報告に変わります。」未沙の言葉で、モニターが白紙化され、今度はマクロス艦をふかんで見下ろした全体像が映し出される。
「マクロス内において、軍に所属する人員とその家族数2万5千人、及びに、民間人がおよそ5万8千人が収容されています」
 未沙の言葉と共に各ブロック事に所属する人員数の付箋が現れ、マクロスの各部を指す。
「現行、民間人の仮設住宅はマクロス艦内には保持していなかった為、先に収容した南アタリア島の建造物を代用。D−13から16ブロックに移設を行っています」
 モニターの一部に小窓が開き、現在進行している工事状況が映し出される。
「次にマクロス艦内に残る残存戦力の報告にうつります」
 モニターから付箋や小窓が消え、再びマクロスのふかん図だけとなる。
「艦載機に関しては、艦内工廠にて随時生産も開始されておりますが、現在、ヴァルキリー部隊は、スカル大隊を含む30大隊、総数766機。デストロイド部隊10師団及びモンスター2機、総数826機となっております。」
 アームド部分にヴァルキリーの付箋が引かれ、デストロイドはマクロス本機に付箋が伸びる。
「…」一度、未沙が報告を切り、艦長を見た。
「そして、主力となるマクロスの主砲ですが、…現在、使用が不可能となっています」
 未沙の報告に艦長以外の聴者がざわめきを漏らす。
「早瀬君。報告を続けたまえ」
 艦長が一呼吸置き、報告を続けるよう促すと、ざわめきを収まり、…未沙の言葉に注目する。
「技術班の報告によりますと、フォールドシステムの消滅が原因ということです」
 モニターからマクロスのふかん図が消え、マクロスの前と下側のフレーム描写が表示され、艦内部のフォールドシステムが存在していた区域が赤く点灯する。
「エネルギー炉から主砲へと供給するラインにフォールドシステムが使われており、そのため、ラインが切断しています」
 モニターのマクロスの主砲部分とエネルギー炉部分が点灯し、それをつなぐラインがフォールドシステム部分に結ばれる。
「しかし、艦内の機材では、このラインを接続できる代用品がなく、修復は無理だということです」
 再び、ざわめきが…先程よりも大きく…室内に響く。
「対策案はあるのかね?早瀬君」
 再び、ざわめきを遮るように艦長の言葉。それに未沙は「はい」と、答えた。
「マクロスがブロックモジュール構造集合体の宇宙船であるのを利用します」
 モニター上のマクロス艦のフレームがこま送りで変貌していく。
 当初H型の船体にアームド1と2が主翼のように飛び出した形をしていたマクロスが未沙の言葉を開始にして、中央部の司令塔部分を含むブロックが180度前回転。司令塔の部分が後ろ90度回転。  ちょうど主砲の間に司令塔が収まり、肩から大きな角を生やした人型にと変形する。
「このようにトランスフォーメーションを行い、エネルギー炉を主砲に連結し、使用可能となります」
 室内に感歎の声と安堵の溜息が漏れるが、艦長は苦い物を噛むような顔を見せる。
「…早瀬君、トランスフォーメーションを行った場合、艦内に出る影響は…民間人エリアへの被害はないのかね…」
「………」
 艦長の質問に…未沙は押し黙る。
「先の戦闘から復旧した町をみすみす危険にさらすことはできん。できることならば、これ以上、民間の人々に迷惑をかけるわけにはいかん…この方法以外での解決案を至急、技術班に要請したまえ」
「はい!」
 艦長の言葉に未沙は返事を返す。それを聞き、彼は深々と椅子に座りなおした。
 そして、深く大きな息をつく。…

 対策案が出来る前に…敵が攻めてこないことを祈るかのように…

 だがしかし、グローバル艦長の思惑は、その数日後に打ち砕かれることとなった。

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