=第四章・第一部=

=[超時空要塞MACROSS/アポロ小隊]=

 

 マクロスが冥王星軌道より地球を目指してから、一ヶ月が立った。
 あれから、数度となく、敵軍であるゼントラーディ軍が襲いかかってきており、…激しい戦闘を繰り返すも、…マクロスは健在であった。また、人々も幾度とない襲撃でトランスフォーメーションを行った際でも、被害を最小限に押さえられる町並みの構成を行い、変形による被害も起こらなくなり、平穏とは言わないまでも、平安な日々を送り出していた。
 そして、マクロスは、…土星の宙域に指しかかった時の事…

「フォッカー少佐、入ります」
 俺は、フォッカーの呼び出しをもらい、軽くノックをした後、ドアのインターホン越しに言葉をかける。
『おう、入れ』
 声をかけてから、数秒して、返事が返り、ドアが横にスライドして、開く。

 あれから、死神の囁きはあるものの、あの戦闘の時ほどの意識を失うような感覚は受けていない。
 だから、何かを注意を受けるほどの事は行ってはいないとは…感じてはいるのだが、

 そんな事を考えながらも、俺はある程度の覚悟を持って、中に入った。

 そこに事務的で質素な椅子に座り、何かの資料に目を通すフォッカーの姿。そして、見なれない自分と同じ程の年齢の軍人が二人立っていた。
「よくきたな。まあ、楽にしてろ」
「…」
 フォッカーもしばらく、そのままの格好で俺に指示を出す。
 俺の興味はというと、もちろん、見なれない二人の存在だ。
 片側は銀髪の優男で言うなれば、スカル大隊に所属している一条輝と同じイメージを持つ。
 もう片側は金髪で体躯もしっかりしており、戦闘機乗りというよりも格闘家のようにも感じる、そして、額の十字傷も印象的であった。
「いや、待たせたな。」不意にフォッカーが資料を机に置くと立ちあがり、俺の前に立つ。
「まずは、おめでとう」
「おめでとう?」
 フォッカーからの思いもよらない言葉に、俺は意味も分からないまま、その言葉を反芻する。
「ああ、お前は今日から、小隊長に任命されたんだ」
「…しょ、小隊長…!?」一瞬、フォッカーの言葉に俺は、息を止め、目を剥いてみせる。
「どういう事です。少佐」
「これからの戦闘はさらに激化するだろう。そうなれば、命令もさらに細分化していく事となる。そのために、状況に合わせて小回りのきく小隊編成を組む事になったんだ」
「どうして、俺なんです。俺は指示の出せるほどの立場に立てる人間ではないと思うのですが…」
 もちろん、決定事項であり、俺の言葉一つで変わるわけではないことは分かっている。それでも、不満を覚えるのだから、口答えの一つでもついてしまった。
「お前の言いたい事はよく分かる」フォッカーがそんな俺に対して、肩を叩いた。
「確かに、今時点では、お前は隊長としての器量がないかもしれないが、その戦績は紛う事無く、トップクラスだ。その実力をただ一介の兵士で埋もらせてしまうのは惜しい」
 再度、大きく肩を叩くフォッカー。それは少し力強すぎて、俺の体が少しだけ傾いてしまう。
「とにかくだ、お前は今日から小隊長になったんだ。今までのような気分でいないことだな」
「…分かりました」
「よし、では、お前の部隊はアポロ小隊になる。そして、お前の部下がこの二人、ブルースとエディだ」
 フォッカーは俺の言葉に軽い安堵の表情を見せて、先程から気になっていた二人に手を向けた。
「少佐より紹介のあったブルース・ルデールです。隊長、よろしくお願いいたします」
「フォッカー少佐の紹介にあったエディ・ユーティライネンです。隊長殿、俺がきたからには問題ありません。大船に乗った気持ちでいきましょう」
 二人の簡単な自己紹介に呆っとしていると、「お前も挨拶しろ」と、フォッカーに腰を小突かれる。
「あ、あぁ、いや…よろしく」
 そうは言われても、俺は特に言葉もないので、短い言葉ですませた。
「ったく、つまらん男だなぁ。まあ、いい…用件は、それだけだ。お前ら三人で食堂にでもいってこい。とにかくこれからは、お前達、三人はチームだ。少なからずでも、自分達の事を知っておくんだな」
「では、失礼します」
「それでは、少佐殿、失礼します」
「…失礼します」
 ほんの少しの間だったが、何か疲れを感じながら、俺は二人を連れ立って、フォッカーの部屋を後にする。
「ふう…」
 ドアが閉まり、三人の気配が消えた時、フォッカーは息を抜いて、椅子に座る。
「少佐、スカル大隊パトロール編成表を持ってきました」
「おお、輝か、入って来い」
 つかの間もなく、インターホンから輝の声が聞こえたので、フォッカーが呼び入れる。
「先輩、今のは」
「ああ、あいつの事か」
 ドアに入るなり、すれ違ったのだろう、先程までいた三人の事を聞いてくる。
「あいつは今日からアポロ小隊の隊長になったんだよ」
「ぇえ?隊長ですか?」
 輝は手に持っていた資料をフォッカーに渡しながら、少し間の抜けた声を洩らす。
「なんだ、不服か?」
「い、いえ…」
 輝の言葉を予想してたのか、不適な笑みを返すフォッカー。それに言葉を濁しながら視線を逸らす輝。
「まあ、入隊でいえば、お前が先だが、実力でいえば、あいつの方が上だからな」
「はいはい、分かってます」
「うはははは、まあ、そんなにヘコむな。輝」腰をかけながら、フォッカーはドンと輝の背を叩く。
「俺からみれば、お前らの実力はどんぐりの背比べ、たいしたもんじゃない」
「ちぇっ」
「それにだ。」さらにふてくされる輝を楽しんでいたフォッカーだったが、不意に軽口を止めた。
「…あいつの危うさについては、前にも言ったな…」
「………」
「あいつを部下として使うには危険すぎる。常に死を匂わせる戦い方ばかりをしてきている。…」
 椅子に深く掛けなおし、肘を突くフォッカーの瞳には、深い悲しみをたたえていた。
「あいつの腕前を失う事もそうだが、それ以上に皆で地球の大地を足で踏む事が重要だ」
「はい…」
「あいつをその暴走的な戦いに誘わないためにも、小隊長に任命したんだ。そうする事であいつだけの命ではない事を…分からせるためにな」
 フォッカーが最後に輝に向き直り、最後にこう言った。
「帰ったら、親父さんと奥さんの墓に足を揃えていこうじゃないか。輝」
「…はい」

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