=第四章・第二部= =[超時空要塞MACROSS/アポロ小隊]= |
「隊長殿は、何か食べますか?」
「…いや、今は特に…」 「じゃあ、コーヒーでも注いできます」 食堂に着くやいなや、エディが意気揚々と俺に尋ねてくる。少々暑苦しさも感じるその勢いに少々押され気味に答えると、足早に駆け出していった。 「相変わらず、元気がいいな、あいつは…」 その行動にブルースも少し冷めたため息を漏らす。 「あいつとは、長いのか?」 「同じスクールの同期生ってだけのことですよ。そこまでは、知りません」 ブルースのエディに対する態度には、少しばかり共感しながら、適当に目のついた席に腰を下ろす。 「しかし、隊長の下につけるとは、…思いもしませんでした」 「俺?」「隊長は有名ですからね。スカル大隊の中において、本当のスカルフェイス(死神)と謳われていますから」 「…そんな仰々しいものでもないさ。ただの一介の兵士だよ」 ブルースの言葉を流すように、視線を宇宙空間の望めるルーフに目を向ける。 満天の星空に埋め尽くされたルーフに軽く見とれながら、無言の元、時が過ぎていく。 「それに死神ってのは、人間じゃないしな…残念ながら、俺は人間さ…」ブルースのほうに向き直り、口元を苦笑でゆがめてみせる。 「堕ちれば死ぬし、心も傷ついたりするさ…」 「はい、お待ち。隊長とブルースには、コーヒー。俺はビフテキ」 いきなり、二人のしんみりした空間を楽しんでいた中に、ドンっと机に物を置くエディ。 「…」一瞬、ブルースは拳をコメカミに当てて、ため息を吐く。 「もう少し、甲斐性を持て。エディ…」 「まあまあ、いいじゃないか。ささ、食べようぜ」 「食べるのはお前だけだろ…」 俺も口に出さないまでも相打ちを打ち、頭を軽く押さえる。 自分自身の事でも、手一杯であるのに…だ。この二人をまとめないといけないかと思うと、気も重くなるものだ。 そんな悩む俺の横にスッと人影が落ちる。 「………」 確認するように、面を上げると、…オペレーターをしている彼女、エマの顔があった。 「こんにちは」 不意に俺が顔を向けるのを見てから、ゆっくりと挨拶をしてくる。 「ああ、…」 俺も、何か気押されるような思いを持って、…小さく言葉を洩らした。 「今度、アポロ小隊の補佐をする事になりました。エマ・グレンジャーです。よろしく」 「…」どこか他人行儀な彼女の言葉に…俺は、一瞬、唇の端を上げる。 「オペレーター様が、一介の兵士に挨拶に来るものじゃないですよ」 俺はそこまで言って、視線を逸らし、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「俺達の顔を…そんなに知らない方が、もっと扱いやすいだろう」 俺の言葉に、ビフテキに食らいついていたエディの手も止った。 エマも…見えないようにしていたが、拳を握る仕草をしていた。 「そうですか。そうですね。…失礼しました」 しばらく立ち尽くしていた彼女だったが、最後にそう言って、俺達の前から、歩み去っていった。 「隊長殿、いいんですか?」彼女が消えてから、椅子に一度深くかけなおすと、エディが声小さく、話しかける。 「可愛い子じゃないですか」 「別に…俺は、戦う為に軍隊に入ったんだ。女を漁りにきたわけじゃない。そうだろう?」 軽い睨みをきかしながら、エディに一喝を入れる。 「それでも、」ブルースはエマの立ち去った先を見つめながら、呟いた。 「彼女、隊長に気があるんじゃないんですか?」 「…」ブルースにも、軽く睨みをきかす。 「すいません」 口を閉ざした二人を見て、コーヒーカップを口につける。 …少し冷めたコーヒーが微妙な渋みを残し、喉を滑り落ちていった。 |