=第五章・第三部=

=[超時空要塞MACROSS/土星]=

 

 昔、少しばかり…星に興味があった事もあった。
 野宿をする俺にとって、戦場の光とは違う…厳かな輝きに…心を休めた事もあった。
 そして、今、俺はそのあまたの星の一つに接近している。
 土星のリング。
 美しいと思ったそれは、氷塊の固まりであり、…まさか、こんな形で目の前に迫り来るとは思いもしなかった。

「昔、星を見て育ったな…」俺は冬の北海を思わせる流氷の束の中にいるようなリングの中を飛びながら、呟いた。
「出きるなら、こんな形で来たくはなかったと思うよ」
 もちろん、エマには聞こえないような小声でだが…
「こちら、デルタ1、作戦指示空域に到達。探査開始…次の指示まで待機をお願いします」
「アポロリーダー、了解」
 制動動作に入り、氷塊の海の中に留まる。
「はあ」
 不意にエマの溜め息が聞こえた。
「どうした。そんなに疲れる運転はしたつもりはないが、…」
「いえ、…こんな風に…パイロットは飛んでるんですね」
「まあ…な、もっとも、地球上で飛ぶよりかは、Gがない分、楽ではあるがな」
「これが、…戦場でなければ、楽しいんですけどね」
「ついでに、その相手が、俺じゃなければ良かったかな…」
 メインモニターで辺りの警戒もしながらも、サイドモニターに映るエマを見る。
「…そういう事、言うんですね」少しして、エマが口を開く。
「どうして、そんなに距離をあけようとするんですか…」
「…そんなつもりはないさ」
「寂しくはないんですか…一人でいること…」
「寂しい、…ねぇ。考えた事もないさ…」
 少々下らない問答にも感じたが、…微笑する。
「生まれてすぐに統合戦争に巻きこまれて、生を培った俺に…生きるとかどうとか、…考えた事はないさ」
 太陽の光でうっすら輝く氷塊を見つめながら、言葉を続ける。
「…目の前にいる敵を倒す。それが、俺の全てになった…それが今の俺の生き方さ」
「戦争が終わったら、どうするんです。戦争が…なくなったら、…」
「今、重要なのは未来じゃない。今、俺達がしないといけない事をしなければ、俺達だけじゃない未来をも失うんだ。…今はそんな事を考えるな。…任務に集中しろ!」
 話しているうちにムカムカしてきた。話を切り上げ、任務に殉じたいあまり、語気を荒げる。
 ただ、言った後のエマの優れない表情に…「すまん、言いすぎた」と、とりあえず、付け加えておく。
「いいです。私が悪かったんです。任務に外れた事を聞いてたんですから…」そして、エマは微笑を返す。
「でも、私の事を、…嫌いになったわけじゃないのが、分かったから…いいです」
「…なっ」「こちら、デルタ1。調査空域に敵機は確認できませんでした。次点の座標を送ります」
 もう一言、言おうとした俺に、ヴァネッサの通信が割りこむ。
「どうかしました?」「いや、何でもない、アポロリーダー、了解」
 俺の表情にヴァネッサが不信げに聞いてくるのを、気を取り直して、返事をする。
「ったく、お前のせいで…えらい人間に思われたかもしれないじゃないか…」
「すいません…です。はい」
 少しだけ、子悪魔風に舌を出してみせるエマを最後に見て、サイドモニターを探査用データに切り替えた。
「やれやれ、こいつと話していると、なんだか調子が狂うな…まったく…」
 インカムが切れている事を確認してから、俺は小さくぼやき、スロットルを引く。
 次のポイントに向けて、氷塊の海の中、再び俺のヴァルキリーが動き出した。

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