=第六章・第二部=

=[超時空要塞MACROSS/ゼントラーディ軍]=

 

 俺はブルースとエディを連れ、艦長の執務室の木製の扉をたたく。
「アポロ小隊、入室します」
「入りたまえ」
 艦長の言葉が扉越しに返ってくる。…その言葉からしばらく間を置き、金色のノブに手をかけ、回し、押し開ける。
 部屋の中は、毛の丈は低いものの、赤い絨毯が敷き詰められ、木製で高級そうな本を詰めに詰めた棚が並んでおり、そして、扉の真反対奥に艦長の座る堅剛立派な机があった。
 艦長は、それよりも向こう、宇宙が望めるガラス壁のそばで俺達に背を向ける形で立っていた。
 3人が中に入り、最後にはいるエディが扉を閉めるまでに…俺は視線を当たりに巡らせる。
 艦長だけではない。その右手にはオペレーターのクローディア、そして、エマの姿もあった。
 内部の様相を確認を終え、視線を前に戻す頃、…ゆっくりと艦長が振り返り、3人の姿を見る。
「これより、君達には、特殊任務についてもらう。…クローディア君」
「はい」艦長の号令と共に黒人オペレーターのクローディアがうなずき、部屋を暗くした。
「今回、アポロ小隊に行っていただくのは、撃墜され、漂流している敵戦艦の調査を行っていただきます」
 同時に左手にスクリーンが降り、そこに大破した敵戦艦の写真が映し出される。
「現在、統合軍の持つ異星人の情報はあまりありません。今回の調査しだいでは、敵の明確な情報が手に入るかもしれません」
 クローディアの解説を聞きながら、漠然とスクリーンを見る俺は、心うつろなものだった。
「この敵戦艦は私達の戦闘で大破したものではありません。私達とは違う何かと戦い、破れ大破したものでしょう」
 そんなクローディアの説明も多少聞き流しながら、エマの方に視線だけを軽く向ける。
「現に私達の乗るこのマクロスもまた、今まで遭遇した敵戦艦とも形状が違います。つまり、私達の乗るマクロスは現在遭遇している敵とはまた違う種族と判断しております」
 暗がりで皆と一緒にスクリーンを見ているエマの顔は、少し見えづらかったが、…その表情には影も浮かぶ。
「様々な点において、私達は、敵に対しての情報が不足しています。そのため、今回、アポロ小隊には大破した敵船内に潜入し、できうる限りの情報を収集してきてください」
 写真画面が切り替わり、大まかな見取り図に変わる。
「では、作戦行動紹介ブリーフィングに移ります。アポロリーダーは艦内に入り、情報収集に入ります。アポロ2は進入デッキの警備、アポロ3は外観の警備に当たってください」
 今度は、スクリーンの見取り図の艦内の簡易的な見取り図が現れる。
「マクロスにおける探査機能により、ある程度の内部構造も分かっております。アポロリーダーにはマクロスの算出した中枢区と思われる区域を目指して飛んでもらいます。その際、装備されるファーストパックにはカメラを装着。マクロスからも映像を習得し、解析に回します」
 そして、スクリーン画面が消え、スクリーンが上がると同時に部屋内に明かりが灯る。
「ただし、大破した敵艦だとしても、残存戦力が残っていないとは断言できません。十分注意してください。以上でブリーフィングを終了します」
 クローディアは言葉を切り、俺達3人のパイロットの顔を見るように首を小さく回し、正面に立つ俺の目を見る。
「作戦開始時間は、0500。それまで、各自、準備をしてください」
 クローディアのその言葉に俺達は敬礼する。
「よろしく頼んだぞ。アポロ小隊」
 艦長も深々とかぶる帽子の間から見つめ、小さくも力強く、言葉をかけてきた。
「では、失礼します」
 俺はそう答え、敬礼を解く。続き、扉に近いエディが開け、館長の執務室を後にする。
「エマオペレーター」俺達3人が退室し、扉が閉まるのを確認した後、クローディアがエマに話しかける。
「本来であれば、この役柄は早瀬未沙中尉にやっていただく仕事です。ただ、現在、中尉が行方不明という事実はあなたも知っているでしょう?」
 エマは無言でうなずく。
「…マクロスのオペレーターになって、日の浅い貴女にこんな大役をまかせるのは酷かもしれない」
 クローディアは、そこまで言って、エマに微笑みかける。
「この何も分からない状況においてでも、彼、アポロリーダーの能力は極めて高く、現状のマクロスの中では、もっとも優秀なパイロットである事実があるわ。ただ、その能力は完全ではない。それはあなたも知ってるね」
「…はい」
「乱戦に近い戦闘になれば、彼は自分を失ったように戦い、…彼自身の命さえ軽んじる。今現在、彼の能力を失うことは、マクロスが無事に生還を果たすためにも…」
「分かっています…例え、彼がただの駒のように扱う言い方であっても、彼は咎めません。むしろ、彼はそれを望んでいます」
 エマは、何かを思い出すように返答する。
「パイロットは、人間よ。そして、今…消えてしまう可能性がある彼を繋ぎとめていられるのは貴女だけ」
 エマの言葉に横に顔を振り、肩に手を置くクローディア。
「あなたの言葉に彼は反応し、主砲軸線から離れ、生存した。あなたが乗っていたからこそ、敵旗艦の探索も無事に済んだ」
「………、でも…」
「男はね、そっけない素振りをしてても、気にかけてくるものよ。とくに気にしている女性なんかには…ね、」
 そして、クローディアがポンっと肩を叩き、エマから一歩引いた。
「作戦時間まで、少しゆっくりなさいな。気負いすぎも体に毒よ。エマオペレーター」
「分かりました。では、失礼します」
 少しだけ、クローディアと話した事で気が楽になったのか、エマは笑顔を見せ、軽い敬礼を見せた後、扉を開けて、出ていった。
 その後姿を見つめながら、ただ「がんばんなさい」と、クローディアは小さい声でエールを送った。

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