=間章・第一部=

=[コーヒーブレイク]=

 

 敵艦探査の任務から数日が経った。

「これなんか、どうです?」
「お、いいじゃないかな?エマさん、似合ってますよ」
 エマの黄色い声に、エディがおべっかにも聞こえる言葉を返す光景を前に…俺は、頭を抑える。
 特殊任務の恩賞というか、そういう事でもらえた特別休暇に、…俺は宿舎でのんびりするつもりでいた。
 そこを部隊の二人に、あれやこれやと乗せられて、町に出る事になったのだが…
 どこでどうして、エマと合流することになったのか、そして、この女性専用の華やかなブティックに足を入れる事になったのか、甚だ疑問符が浮かぶ。
「いったい、これはどういう事だ…」
「さあ、どういう事でしょうね」
 二人の黄色い会話を遠めで見る俺は横に立つグレースにそう問いただすが、グレースもグレースで鼻で溜め息を吐いてみせるだけだった。
「………俺、帰るわ…」
 場違いとも思えるこのブティックの雰囲気に当てられたのもあり、…気分が悪くなっていくのを感じた。正直、吐き気さえ…覚えた。
「あっ、隊長」
 その行動に気づいたのだろう、エディが声を上げる。それをただ、後ろ手で手を振ってみせた。
「悪いが、先に帰らせてもらう。三人、ご自由に…」

 店を出て、上を見上げる…。
 地球の環境を思わせた方が住居としてもストレスを感じないのでは、という方針で、雲の浮かぶ青空のフォログラフが映し出されていた。もちろん、時間が立てば、夕日に代わり、夜にもなる。
 そんな嘘の空を見つめながら、溜め息を吐いた。
 俺は、…もう一度…この空を見れるのだろうか…。嘘のものではない、この空を…
 少し、そう物思いにふけり、…失笑した。
 地球に望郷を求めている自分が笑えたから…ただ、失笑した。
 いつまでも、そこにいるのも馬鹿らしいので、歩くことにする。
 もちろん、当てもない訳だが、…この町が出来てから、一度も訪れた事がないので、…いい機会だとも思った。

 その数分後、そんな事を考えた俺は後悔した。

 ネオンの飾りが所狭しと並び、動く看板で客引きをする、その中を人々が行きかい、子どもが笑い、女性が笑い、男性が笑う。
 活気と幸せのつまったこの世界に…胸焼けを覚えだす。
 腐るほどの戦闘中の熱気に当てられても平然でいれる自分が…人ごみの熱にやられるとは…
 苦笑以前の問題だった。…

 何とか避けるように、…一歩抜け出て、…人のいない店の軒先で足を止めた。
 …一息を吐き、周りを見回す。未だ、人の往来が激しく、…気分が悪くなりそうだった。
 後ろを見れば、人気もないこの店は玩具店のようで、ショーウィンドウに…ミニチュアのプラスチック模型が並ぶ。…
「まあ、このまま、宿舎に戻るのも癪だな…」
 そう思い、その店の戸を手で押し開けてみる。

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