=間章・第二部=

=[コーヒーブレイク]=

 

「いらっしゃい…」
 店の戸についたベルが鳴り、新聞紙を広げ…こちらを見る事無く、店長らしき初老の男性が声をかける。
 寂れた雰囲気は…その店主の対応にもあるんではないだろうか…品揃えのせいか…どうかは分からないが…
 この戦艦の町が出来て数ヶ月、こうも古風感の出る埃っぽさがある店内は、少しばかり畏敬の念を持った。
「…あんた、見ない顔だね?…」
 不意に、店内を見回す俺に店主が話しかけてきた。
「一見さんはお断りかい?」
「まさか、一見さんでも大歓迎さ。そこででも座って、眺めてみるかい?」
 新聞をたたみ、そう告げた店主の言葉に、軽く思案し、「そうさせてもらうよ」と、答える。
 人ごみが少しでも引けば、…という思いで…だ。
「見た所、軍人みたいだね」
 席に座り、店内のものを物色していると、店主が声をかけてくる。
「軍人はお断りかい?」
「まさか、客は客さ。あんたなんかにゃ、あれなんぞどうだい?」
 俺の言葉に、ひゃひゃひゃっと笑いながら、軽く指を指す。「暇つぶしにはもってこいの大型戦闘機ヴァルキリーだよ。完成は、完全変形も再現してるでよ。どうじゃな?」
「…高いんじゃないか?俺は、たいした給料をもらっちゃないぜ」
 段の最上段に飾ってあるちょっとした小型の衣装ケースくらいありそうな紙箱を指して進めてくる店長に、軽く渋りを入れる俺。
「それに、こういうものを作るのも初めてさ。初心者には厳しいだろ」
「ひゃひゃひゃ、じゃからいいんじゃないかい。高いもんだったら、慎重に作るじゃろ。でもって、出来上がりに感動するってもんさ」
「ふむ、…」店主の言い分に、俺は妙に納得してしまう。言い分的にはそうだ。
「まあ、とりあえず、保留かな、初めてだし。もう少し他のものを見てみたい」
「ああ、構わんさ。戦うばかりじゃ、いずれ疲れちまう。こういうので生き抜きも大切さ。生き甲斐ってもんを持つべきだよ」
「生き甲斐か…」
 店主の言葉の節々に…なんとなく反応する俺。
「戦うことが…生き甲斐じゃ…駄目かよ」
「…いずれ、疲れちまうぜ。軍人」
「疲れるとは思った事はないさ」
「まだ、若いからじゃよ。歳を行けば、そうも言ってられなくもなるさ」
「…あんたも軍人だったのかい?」
「そういうこった」
 …店主の言葉に、俺はどこか絆されていく様な雰囲気を持つ。…別に、気分が悪くなることもない。
「統合戦争は…酷いもんじゃった」
「そうだな…」
「卵の殻をつけた雛っ子も…どんどん狩り出されてな、…つまらん事だわい」
「…ふ、…」
「それが終わったら、今度は異星人と戦争とはな…とんだキチガイだわ」
「キチガイ…ね、そういってしまったら、あんたもキチガイじゃないのかい?元軍人さん」
「ふん、まともな人間なんぞ、おるものか」
 コポコポっと、ポットの湯を何かに注ぐ音が聞こえる。
「おまえさん、コーヒーでいいかい?」
「サービスかい?お金取るならいらないぜ」
「無論、サービスじゃ」
「じゃ、ブラックで…」
 そんな受け答えの後、俺の横に湯飲みに入ったコーヒーが置かれる。
「下らん人生じゃぞ、戦うばかりじゃの…いずれ、眠ることも怖くなり、…自分の口に銃を突っ込んでおっ死んじまう事にもなるさ」
「いたのかい?そういうのが…」
「わしの親友にな、阿呆じゃったわ…」
「………」
 コーヒーを口に含む。…湯飲みで飲むのは、初めてだったので…口元に違和感を感じた。
「そうやって、これを作ることが生き甲斐だと、商売するのは、あくどいって言うんじゃないのかい?爺さん」
「ひゃひゃひゃ、まあ、ダシにする内容じゃないわな。確かにの〜」

「生き甲斐か…」
 店内のどこを見るでもなく目をさまよわせ、言葉を漏らす。
「…確かにな」
 そう呟くと、心の奥で何かがくすぶった。

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