=第七章・第一部=

=[超時空要塞MACROSS/火星[MARS]]=

 

 マクロスが冥王星から旅立ち、…いくつもの戦闘と、いくつもの出来事を経て、…7ヶ月が過ぎた…。
 そして、俺達は、火星の軌道周辺にまで辿りつく事ができた。
 
 火星…。
 その昔、名の知れた映画でも、B級映画でも、火星人が存在するといわれた惑星。夢物語にも思えたそこに、俺達が訪れる。
 残念ながら、現在、この惑星には火星人がいない事は、…この惑星に在住する事になった探査メンバーによって、分かっている。もっとも、その探査メンバーに加わった人間全て、反政府軍によって亡き者にされ、火星に設置された研究所、サラ基地も主人を失ってから放棄されていた。
 …艦内のサロンルームから望む、その人がいなくなり息を潜めるサラ基地は、…大地に根付く巨木の切り株のようにも見えた。
 このサラ基地で行っていた研究の内容は、俺は知らない。この火星にどれほどの資源価値があるのか…、特に興味もない。
「食いつぶすか…」
「え?隊長、なんです?」
 俺の呟きを隣に座り、口いっぱいに物を押し込んだエディが、俺を見る。
「いや、お前のことじゃないさ」
 そのエディの行動を見て苦笑をもらしながら、再度、火星の表面を見る。
 この火星にどんな価値があるかは、俺の考えることではない。
 ただ、…地球で枯渇した資源をこの火星に求めるために、この研究所が成されたのだとしたら…、と、ふと考えた。
 もちろん、俺はこの事を全面的に否定するつもりもない。なくなった資源を求めるのは当然のことであり、必要不可欠な事だろう。
 しかし、…そうやって、成しえ、そしてそれについてきた代償さえまともに支払えないでいる人類が、新しい所で資源を採取する事には、俺は一抹の疑問も浮かぶ。
 もしも、このゼントラーディという存在が、惑星自体が渇望したことであれば、…人類の滅亡が…惑星の良薬と考えるならば、
「ゼントラーディの存在は、惑星にとって、必要不可欠だったのだろうな…」
「…?隊長?」
「いや、なんでもない」
 先程より外を眺め、思いにふける様の俺に、今度は、ブルースが声をかけてくる。それにも、ただ苦笑をもらし、艦外に向けていた視線を席を挟む二人に戻す。
「…惑星が、ゼントラーディの存在を認めていたとしても…だ。俺達は、生きる権利がある」
 …目に見えるほど大型の生物ばかりではない。人間の認識できないほどのウィルスであれ、…生きる権利はあるだろう。そして、彼らは生き延びるために、努力する。ただ、その結果、その新しく生まれた種が人間にとって害敵成分があれば、死滅させてきた。
 もし、惑星にとって、害敵成分として人間が選ばれたのであれば、必然、死滅させる事を考えるだろう。
 いや、その考え自体が、人間的な考えであって、惑星がそんなことを考えるわけもないかもしれない。
 ただ、そう考えれば、ゼントラーディの出現も、幾分納得がいくような気もする。
 けれど、それにおめおめ従うことが、できようか…。ウィルス達も、姿を変えてでも生き延びようと、生物間を渡り歩く。
 生きる…。それは、生物として生まれた時点で、何物もが持つものだろう。
 それが、生物としての理念であり、信念というべきだろう。
 だから、…だ。俺達は戦い、生き抜かねばならない。惑星を移動してでも、生き抜いていく。
「くだらないことを考えていただけさ。気にしないでくれ」
 食事をしていた二人が手を止め、俺を見ているのが、…おかしかった。
 まさか、自分勝手な考えで物思いにふっけっている俺を見て、こんな風に反応されるとは、…それが、面白くて笑った。
「あっ、わかりました」
 不意に、エディが思いついたように声を上げるが、「お前の考えることとは違うさ」と、ブルースが否定する。
「どうせ、お前のことだ。今晩のバーでの女の口説き方でも考えてた、なんて言うんだろう?」
「おい、それは、どういうことだ、ブルース」
「言ったとおりの事だ。…違ったのかい」
 俺を中心に何か話し出していたかと思うと、今度は漫才のように意見を言い合う二人に、先程とはまた違う笑いが漏れる。
「…俺も変わったかな…」面倒くさいと思えた人との繋がりに、笑える環境がある。俺もこうなっていくのに、苦痛もない。
「………少佐」
 そして、その脳裏に…、フォッカー少佐と輝の姿がよぎる。…
 フォッカー少佐のおかげで、二人に会うことが出来た。…そういう意味でのお礼を言うべきだ…と、この場に少佐がいないからこそ思えるのかもしれない。輝もそうだ。輝という存在がいたから、少佐との関わりが深くなれた気もした。
 二人を含み、早瀬中尉とアイドルのリン・ミンメイの存在も、思い出す。
 彼らがいなくなってから、…だいぶ経つのだ…。
 不意に、サロン内のBGMが変わる。…このサロンの雰囲気には少し場違いにも思えたが、今はこの艦内にいないはずのミンメイの歌声が流れてきた。
「不思議ですね…」歌が流れ出した瞬間、言い争いをしていた二人は、口をつぐみ、…ブルースが言葉をこぼす。
「ミンメイがこのマクロスからいなくなってから、…十数日…、それでも彼女の歌がこのマクロスに流れている」
「ああ」…ブルースの言葉に、エディも感慨深く、口を開いた。
「まるで、このマクロスにいて、…生きているようだ」
「生きているさ」俺は、エディの言葉を遮り、少し声を弱めながら、…二人に諭すように言葉をつむいだ。
「フォッカー少佐がいるんだ。そして、フォッカー少佐の可愛がっていた輝もいる。…二人がついているんだぞ。ミンメイも生きている。だから、俺達の成す事は、このマクロスを地球に到着させることだ。地球に戻ることだ。…必ず、彼らもそこにいる。そう、俺は考えている」
 俺の言葉に、二人は聞き入り、そして、うなずいた。俺も、その二人の引き締まった決意の表情に満足を覚え、席を立つ。
「そろそろ、時間だな、アームド1に向かうぞ。二人とも」

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