=第八章・第四部=

=[超時空要塞MACROSS/地球、そして…]=

 

「…?」
 そろそろ指定ポイントに近づいてくるにつれ…、違和感を覚える。ここは大海原のど真中であり、…正直、通信機能をそなえた漂流物でもあるのかと思った。…
 だが、それは…そんな生半可なものではなかった。海上都市とでも言うべきか、…それが存在した。
 海面近くを飛んでいる俺の機体が近づくにつれ、空に突き刺さらんばかりの塔と…キノコにも似た屋根を有した建造物が目に入ってくる。
 どれもこれも、色あせ、海水に長らく浸かっていたかのような、海産物の残骸をまとっていた。
「なんなんだ…これは…」
 思わず、声が漏れるほど…それは大きな都市だった。
「…アポロリーダーより、デルタ1。指定ポイントに見た事のない都市…海上都市の残骸がある。映像、見えるか?」
「…はい…今、艦長の方にも連絡を行っております」
 エマもモニター越しに目を見開き、…手元を慌しく操作しながら、俺の言葉を受け答える。
「こちらも、後数分で大気圏に突入。アポロリーダーは、その場で………」
 不意に、エマの言葉が切れる。
「どうした?…」エマの驚きの表情にも驚かされ、…俺も都市を映すモニターを見た。
「おい…、…」
 最も高くそびえる塔の下に…オレンジ色に塗装された…ヴァルキリーの姿が見えた。
「う…う、うぅ…」
 エマも口元を押さえ、漏れでそうな声を収めようと努力する。ヴァルキリータイプVT−1、副座式練習飛行用ヴァルキリー。
「生きている…生きているんだな」
 そのヴァルキリーは、行方不明になったリン・ミンメイと一条輝の乗っていたものとの同系機であった。
「こちら、アポロリーダー。これより周辺空域の探査を始める。エマ!!生きているぞ。あいつらが、いるんだ!!」
「アポロリーダー!!」スロットルをあけそうになる俺にエマは声をかける。
「先行調査をお願いします。みんなの姿を、早く早く…お願いします」
 エマの言葉に答えるばかりではない。俺はただ外周を回り、くまなく見て回る。そうこうするうちに、空に轟音が響き、徐々に日が陰る、…都市を影が覆う。
 まるで巨人のように雄大なマクロスの姿が…、俺の目にも映る。…
「…それでも、俺達は地球に戻ってきたんだ」
 マクロスが海上都市の前にして、程なく、発炎筒の煙が都市の一部に上がる。
 ラダーを切る。俺のヴァルキリーが旋回し、そしてガウォークに変わる。
 二人の姿が見える。…二人だけの姿。…近づいていくと、…徐々に分かりだす。
 一条輝と早瀬未沙の姿…。その二人以外の姿が見えない。…
 もちろん、無事ではすまないとは思っている。もしくは、怪我を負い、この場にいないのかもしれない。
 そういう思いをもって、俺は二人の前に機体を下ろす。
「…」ガウォークの機首を下げて、俺は敬礼をする二人の前に降り立った。
「生存者は…二人だけか」
 敬礼を返し、…ヘルメットを脱いだ俺はそう尋ねると、無言で小さく、輝がうなずいてみせ、傍らに立つ未沙は…うつむいた。
「…そうか、…」俺はただ、そう言葉を続け、口を噤み、…空を見た。その空には、マクロスが悠然と浮かんでいた。
「それでも、俺達は帰ってきた…。地球の空の元にな…」

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