=第八章・第五部=

=[超時空要塞MACROSS/地球、そして…]=

 

 地球に到着して、数日が過ぎた。
 輝達の報告と周辺区域を調査した結果でも、地球に生存者の確認はなかった。
 一時、地球に辿り着いた事を艦内に住む一般人へ報告するかの議論もされたが、…いずれ分かる事であったので、…艦長報告は粛々に行われた。

 町は…騒がしく賑やかに…日常が続く。
 もちろん、艦長の報告を聞き、失意をする者、絶望をする者…、その場にいた軍人に組みかかる者…、それぞれの心境でもって、数日が過ぎたことだろう。ただ、そうした所で…滅びさった地球が戻る訳でもない。
 失意に傷つき、魂が抜け落ちた人々を元気付けるように、町は光り輝き、そして動いていた。

「…それでも、俺達は地球に戻ってきた…か」
「………」
 町の喫茶店の一つで、俺はエマを前にして、輝達にも投げた言葉を漏らす。
「…戻ってきて、…どうだというんだろうな」
「………」
 独り言のように…もちろん、胸に思う心境を抑えられないからだが、…ただ、言わずにいられなかった。
「統合戦争で俺は、家族を失った。…いや、自分の住む町を失った。…その時、空が俺の全てになった」
「………」
 エマは言葉を聴いてはいるが、…答えはない。
「…戦の火に染まる空に、…俺は命の火を見た。…そして、俺は軍に入り、…死神などと言われるような実力を持った」
「………」
「何の事はない…。家族を失った俺は、世間に歯向かっただけのこと、そして、都合よく戦争があり、そして、そこで捌け口を持っていったまで…」
 テーブルの上に置いてあるコーヒーカップを眺め、…その黒い輝きを瞳に収める。
「どうせ、死ぬなら世間に思い知らせて、…死んでやろうってね」
 そして、俺を見るエマを見つめ、「それが昔の俺さ…」と言葉を綴る。
「腐ってるだろう?心底…」
「………」
 エマは、軽く顔をうつむかせ、面を上げた。
「で」「だから、俺はあの時、君の言葉にむかついた」
 口を開こうとした彼女の先制を挫くように、俺は言葉を再び続ける。
「二人っきりの怖い怖いデート飛行時の言葉、…悪かったな」
「…そんな」
「もちろん、その前の時からも…」
「いきなり、何を言い出すんです…」
 突如、次々と非礼を語る俺に、エマは驚いたように声を漏らした。
「君と艦で再開をしたといった時、本当に君のことを忘れていた…が、…」
 俺は、エマの淡く青い瞳を見つめ、言葉を紡ぎだす。
「君の声は記憶にあったようだ…」
「……」
「ゼントラーディと初めて遭遇した南アタリア島でオペレートしてくれたのは君だろう?違うかい?」
「…そうですね、急いで席について…指示を出してたのは、スカル大隊でした」
「その時、君の声に…ね、俺の中の存在を一瞬、消されたのさ」
 俺は視線を落とし、コーヒーを見る。そのコーヒーに映る自分の影を見つめながら…言葉を続ける。
「君が言った、あの統合戦争時代の後、救ったって話かな…。その時、君も何か言ってくれたんだろうけど、覚えてはいない。けれど、君の声は、残っていたんだろう」
 そうでなければ、あれほど俺を数年という間、支配した死神が…身を潜めるはずもない。
「代わりに…俺は死神としての力を失っていくようだがな」
 そう言って、広げる手を見つめた。
「まあ、…年をとったってのもあるかもな」
「そんなに年をとっているんですか?」
 なぜか、そこに食いついて言葉を返すエマに、俺は苦笑を漏らす。
「さあ、どうだろうね」
 それから、コーヒーを煽り、空になったカップを見つめ、静かに下ろす。
「…これも、失意だろう…」そして、外に視線を向けながら、賑わう街を見ながら、呟いた。
「地球の滅び去った姿を見て、人恋しくなった。哀れな男だよ…。こんな風に君をお茶に誘うなんて…昔の俺じゃ、出来なかった」
 この人々の賑わう騒々しい光景に吐き気を感じた頃が懐かしくもなる…俺の心情の変化に驚いてもいた。
「守るべき家族を失い、守るべき町を失い、…そして、守るべき空を失った」
「でも、マクロスが生きています」
 エマは、俺が何かを切望しているように願っているようにみえたのか、言葉を挟んだ。
「マクロスの人々が生きています。町は生きています。守るべき者ならばあります。違いますか?」
「違わないさ、…」彼女のくれた言葉に笑いが漏れる。そして、立ち上がった。
「外に出ようか…町の空気を吸いたくなったよ」

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