=第八章・第七部=

=[超時空要塞MACROSS/地球、そして…]=

 

「悪いな…そっちのデート、邪魔して」
「…まあ、そういう事にしときますかね」
 早瀬とエマは近くのオープン喫茶で話を始めているのを、白い柵を背に見つめながら、俺は輝に声をかける。
「フォッカー少佐は、死んだのか」
 少しばかり、当て所ない話をしてから、俺は輝にそう尋ねた。
「ああ…」柵に腕を乗せ、うつむきながら…輝は、そう答える。
「…そうか、…」
 改めて、そう聞いて、…面を上に上げる。
 …艦内のため、望んだような青い空はない。もちろん、外に出たところで、地球には青い空は残っていないのだが…
「戦争で、いつかは死ぬ。それを分かってて、戦っていたんだ。…仕方ないさ」
「…」
 もう一つの事は聞かない。…聞くのが怖いとか、そういうのではない。
 ミンメイの死亡説はもちろん、ゴシップ誌の傍らでも囁かれている。
 それが戦争の悲劇、…そういうものだろうと、思う。
「おたく、変わったね」不意に輝が俺に尋ねてきた。
「なんていうか、傍若無人な感じとか、そういうのが無くなったな」
「…クククッ、」
 いきなり、何を言い出すのか、と、俺は思いつつ、苦笑が漏らしてしまった。が、…答えではないものの、言葉を続ける。
「そうだな…変わったかな…、自分でも悲しくもあるよ」
「そう?人付き合いが良くて、いいと思うけど?以前のおたくだったら、絶対、女なんて連れて歩くことなんてなかったしね」
「…お前さんみたいなプレイボーイ気取る気はないさ」
 軽口な輝に反論する俺は、…失言に気づく。
「すまない…」
「いいさ…、事実さ…俺が、ミンメイを土星に連れ出したりしなければ…こんな事には」
 輝が自分自身を苛めるように、小さく呟く。
 アイドル、リンミンメイの事は、未だ療養中などという事にはなっている。…これ以上の艦内混乱を起こさない配慮ではあるが、…いつかは事実を告げねばならない…。
 そう…思いながらも、言葉を輝にかける。
「…攻めるなよ…、自分を…。そうしたら、俺みたいなくだらない男になるぜ…そして、夜も眠れなくなり、銃を口に押し込んで、死んじまう事になるぞ」
「…」
「そう言って、俺はいさめられた…」
 俺は言葉を止め、早瀬とエマのほうに視線を向ける。それに気づき、輝も彼女達に視線を向けた。
「輝、お前にはまだ守るべき人がいるだろう?…それを精一杯守れ。…それとも、フォッカー少佐に殴られにいくのか?あの時の俺みたいにな…」
「先輩に…」輝は先程、俺がしたように上を仰ぐ。…そして、呟いた。
「あっちであえるのはいいけど、それでずっと罵倒されるのはごめんだね」
「…クククッ、まったくだな」殴られたことを思い出し、頬を撫でながら、俺も呟く。
「今でも軋んで痛むのさ、奥歯がな…」
 俺も再び、上を仰ぐ…
 そこに本物の空はない。
 けれど、…空を感じた。
 ないけれども、青い空を感じた。
 そして、そこには、俺達の決断したことに満足そうな笑顔を浮かべるフォッカーの顔を感じた。

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