=第九章・第一部=

=[超時空要塞MACROSS/ボドル基幹艦隊]=

 

 和平の祝典の放送を俺は自分の部屋で聞いていた。
 模型屋に買わされたヴァルキリーのプラモのパーツを見つめながら、だが…。
「…、もう少しだな?」組み立て図と見比べながら、その造形の具合に少なからず満足を覚える。
「まあ、使う当てもない金なんぞ、ゴミくずだからな…」
 なんとはなく、出費かさばる事への言い訳を口走ってみたりと…一人で苦笑した。

  コンコン…

 不意にドアをノックされる。…
 少し、思案を持ちながら、…ドアを開ける。

「…」そこにエマが立っていた。
「どうした?」
「…」開いたドアを挟み、エマが俺を見上げる。
「…いえ、少し通りかかる用があったので、…ちょっと」
「…そうか」俺は軽く頭を掻き、苦笑を漏らす。
「思いつめてるようだな。コーヒーでも飲んで、一息ついていけよ」
「…失礼します」

 部屋に招きいれたエマを放送流れるテレビの前に座らせ、俺はコーヒーポットを手に取った。
「あいにく、甘い物はない。ブラックだけだが、いいか」
「…苦手ですけど、しょうがないですし」
 少しだけ眉をひそめながら、エマはうなずき、…そして、テレビを見る。
「…本当に、…和平なんでしょうか」カップを彼女の前に置くと、そんな事をポツリと呟いた。
「私には、そんな風に思えません」

  画面ではグローバル艦長の演説が行われている。
  自分達と戦っていたゼントラーディという巨人族は、メルトランディを相手に五十万年という長い月日を戦い合い、今に至る事。
  ゼントラーディを地球人サイズに縮小するマイクローン技術に複製システムであるクローン技術の紹介。
  和平として招かれた三人のマイクローン化したゼントラーディの紹介…
  と、次々に続けられていた。

「当たり前だろう…そう思えてな…」エマの質問を、鼻で笑ってみせる。
「敵との攻防を目の前で見ているんだ。…素直に受け入れられないだろうさ」
「…はい」
 エマは三人のゼントラーディの映るテレビを見ながら、うなずいた。

  画面に、ミンメイが登場する。
  ミンメイが語る。
  永きに渡る戦いに終止符をうちたいと願うゼントラーディ。
  そして、ゼントラーディの持っていた歌詞のないメロディの事。
  この歌を完成させ、全宇宙に流し、メルトランディとも和平を結び、平和を…

「…綺麗なデタラメだな」生きていたミンメイに喜びを持つほどミーハーではない俺の…彼女の言葉への最初の感想だった。
「あのメロディを聞いただけで、メルトランディの戦意を失った様を見れば、…歌を使い、戦うことは目に見えている」
「………」
 俺の言葉に、エマは口をつぐみ、画面を見続けていた。
「…向かい合い、命を懸けて戦った仲間達をあざ笑ってるように聞こえるよ、…今の彼女の言葉は…な」
「…仕方ないですよ。戦う現実とは無縁な世界の…アイドルなんですもの…」
「ふん…」知らない現実を見ずに語る一般人の言葉で胸焼けを覚えた俺は、コーヒーを口にする。
「…もっとも、そう思えるようになったのも、最近のことだろうな」
 そう呟き、画面を再び見た。
「くだらない人生をどう華々しく終わらせようか…そんな事を考えて、軍に入ったんだからな。…他人の心配をする程、…甲斐性もなかったさ」
 エマは口つぐみ、俺に習うように画面を見た。
 しばらく、テレビを見ていたが「…クククッ」と、苦笑が漏れ、エマを見た。
「すまない。君の話を聞いて、気分を少しでも晴らしてもらおうと思ったのにな…。気づけば、俺の話を聞いてもらっていたな…悪い」
 彼女は俺の苦笑に驚きの表情を見せ、それから苦笑の理由を聞いて、笑顔をみせた。
「いいえ、そんなことありません。私も同じようなモヤモヤした感じだったんですから。あなたも同じように思っていたのだと知って、少しは気分が楽になりました」

  ミンメイにスポットライトが当てられたまま、マネージャーが語りを続けていた。
  光の中でたたずみうつむくミンメイが語りの後半の言葉を聴き、面を上げた。
  そして、…そのステージの袖より現れた、一条輝と早瀬未沙にスポットライトが浴びせられる。

 涙の再開…マネージャーの言葉を借りれば…そういう事らしい。
 エマは沈黙をする。俺も言葉がない。
 あの町で再開した二人の関係を思えば、これは感動の再開と言えるだろうか。
 むしろ、悲劇の再開だろう…。
 輝の心境を思えば、…どうでるか…。ただ、見守った。

  画面の中のミンメイがマイクを取りこぼし、…輝の元へ駆けていき、…その体に腕を回した。
  涙を浮かべ、ただ輝を抱きしめる光景。
  その傍らに、未沙が立ち、二人を見つめる…。

 俺はテレビを消した。これ以上、見る必要性もない。
「俺達、軍人は何をするか、それが分かっただけでいい…。恋愛ドラマは…必要ない」
 少しだけ、エマがこちらを見る。
「後は、一条の問題だ。…テレビを見て、何か言うなんてのは、ばかばかしいにもほどがある」
「…ふふ」エマは俺の答えに、噴出すように笑う。
「スキャンダルネタは、嫌いですか」
「基本、どうでもいいさ。痴情のもつれなんぞ、他人が解決することじゃない。当人の問題だからな」

 ………

「もしも、…」テレビを切った事で、静かになった部屋にエマの声が響く。
「…もしも、ゼントラーディとの戦いが終わったら、…」
「もしも、はやめてくれないか…」
 エマの言いたい事を少なからず察知し、言葉を遮る。
「戦争にもしもを持ち出すべきじゃない…。その考え方は、昔から変わらない…」
「…」
「もしもの答えを聞き、望む結果がでない出来事が起きたら、…どう思う?」
「それは………」
「無碍に否定もしない…そんな昔の俺じゃない…だから、答えれない」
 俺はエマを見て、口を開いた。
「ただ、これだけは約束をする。

 君の無事を…俺は全身全霊を持って、行うつもりだ。
 その結末がどうなろうとも…君の無事を約束しよう

 それが今、俺の出来る精一杯の事だ」
 俺の今持てる彼女への答えに、彼女は無言で見つめ返す。その裏腹で…死神が笑う。

  ナンダ、モウイチド、オレニオネガイカ?

 彼女は俺の答えに対しての返答はしない。俺も死神に対しての返事をしない。
 ただ、ゆっくりと時間が流れる。

「…」時計の秒針の何周目かにエマが口を開いた。
「もしもの答え…は、その時を待ちます…。望む結果になることを願い、サポートをします」
 その顔にさびしそうな影を落としながらも、円満な笑みを浮かべ…

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